民間の旅行者は国連制裁の対象外とされるが旅客機の燃料であるジェット燃料の提供は対象となっているので制裁を履行する義務がある中国政府は定期便の増便には慎重にならざるを得ない。それを補う目的か民間からのチャーター便の申請が相次いでいる。チャーター便であれば民間主導であり、また路線許可を取る必要もないため比較的にこっそりと運行することができる。
6月3日から運休していた上海-平壌のチャーター便が復活し週2便で運行されている。この路線は期間の限定がない定期チャーター便と呼ばれるものだ。さらに、大連、青島、広州とチャーター便が申請済みで、中国航空当局の許可待ちとなっている。
興味深いことに運行中の上海を含むこれらのチャーター便を申請したチャーター主は、すべてCという1人の台湾人であることだ。このCは台湾人ということだけで、会社名も性別、年齢も一切不明と謎のベールに包まれている。
北朝鮮が接近を強めている台湾
通常、航空機のチャーター便を依頼するのは旅行会社であることが一般的だ。さらに確認すると、中国の大型連休や1、2回限定の旅行会社によるチャーター便も延吉や西安、深センなど中国各地で申請されている状態になっている。
これらは、自分たちで集客した顧客を乗せるために単発で飛ばすものでチケットが余ったらその旅行会社で一般販売することもあるが、Cがチャーターしている便は、各旅行代理店から普通に販売されており日本人も利用することができるなど定期便と何ら変わらない。
そもそも北朝鮮へ訪問する台湾人が年間1000人もいるなら、まず先に台北からチャーター便を飛ばしてもよさそうなものだが、なぜ台湾人であるCが台湾よりも中国の複数都市からチャーター便を先に飛ばそうとするのかが謎だ。
「中国政府のカモフラージュの可能性も考えられます。国連に加盟していない台湾は国連制裁を履行する義務がないため、北朝鮮は昨年末から観光業や貿易、人材派遣などで積極的に台湾へ接触する動きを見せています。中国が国として定期便を増やしたり中国の旅行会社によるチャーター便を簡単に許可すると制裁違反との国際的な批判を受ける恐れがあるでしょうから、あくまで民間のしかも台湾人のニーズに中国政府は誠実に応えているだけだと主張してくるだろうと推測されます」(北朝鮮情勢に詳しい関係筋)
北朝鮮は9月9日の建国記念日を盛大に祝い成功裏に収め国際社会へ存在感をアピールし、2018年後半戦に向け外国人旅行客を増やして外貨を獲得したいと中台の巻き込みに躍起だ。果たして謎の台湾人チャーター主の真意はわからないが、外国人旅行客増に一役買っているのは間違いないだろう。
<取材・文/中野鷹(TwitterID=
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