日本の夏はオリンピックに向いていない。今こそ「諦める勇気」を持て

新国立

写真/EPA=時事

この暑さで五輪? 「諦める勇気」を持て

 テレビのニュースが連日、猛暑を伝えている。「命の危険さえある暑さ」、「不要不急の外出は控えてください」、「危険ですので屋内で待機してください」と、暑さの様子を伝えるアナウンサーたちの声にも悲壮感が漂ってきた。  それもそのはず。なにせ7月に入ってから、熱中症による死者の数は、毎週10人を超え続けているのだという。「命の危険がある」とのニュース原稿は言いすぎでもなんでもない。ここまで犠牲者の数が多ければ、もはやこの暑さは災害と言っていいだろう。  しかし残念なのは、愛知県豊田市で起こった小学一年生の熱中症死亡事故をはじめ、報道される熱中症での死亡事例を見ていると、「防ぎ得たのではないか?」と思える事例が多々あることだ。この暑さは努力や工夫でしのげるものではないと素直に認める。自他の体力を過信しない。事前に予定されていた行事であっても中止する……これらのちょっとした「諦める勇気」さえあれば、多くの犠牲は防げたのではないか。  この「諦める勇気」をいま一番に必要とされているのは、2年後に迫った東京オリンピックの組織委員会ではないか。なにせ次の東京オリンピックの開催期間は、2020年7月24日から8月9日までの17日間。東京がもっとも暑い時期にぴったりと重なる。  報道によると急ピッチで建設の進む国立競技場の外気温はここ最近、常に40℃を超えているという。そんな中に観客を押し込めば、人いきれも加わり気温はさらに上昇するだろう。死人が出てもおかしくない。先日、物は試しにと、オリンピックのマラソンコースに予定されている都心部を歩いてみたが、とてもじゃないが暑さで歩いていられない。国は路面温度を下げる新技術を開発したと息巻くが、こんな状況で走らされるアスリートはたまったものではあるまい。選手生命どころが、生命そのものの危機だ。  やはりここは、「諦める勇気」が必要だ。悪い結果になるのは目に見えている。こんな酷暑で観客を詰め込み、選手に活動させれば死人が出ることなぞ火を見るより明らかだ。確かにここまで物事を進めてきたメンツもあろう。これまでの投資という行きがかりもあろう。だが、ここまで危険性が明らかならば、もはやメンツも行きがかりもないではないか。そんなくだらないものにこだわって、このまま何も手を打たないことは、自殺行為であり、そして同時に殺人に加担するようなものだ。  きっぱりと「東京はその時期、酷暑です。オリンピックにこないでください」ぐらいきっぱりとした声明を出さねば、東京オリンピックは国威発揚どころか、国辱喧伝の場になりかねない。 【菅野完】 1974年、奈良県生まれ。サラリーマンのかたわら、執筆活動を開始。2015年に退職し、「ハーバービジネスオンライン」にて日本会議の淵源を探る「草の根保守の蠢動」を連載。同連載をまとめた『日本会議の研究』(扶桑社新書)が第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞を受賞。最近、どこよりも早く森友問題の情報を提供するメルマガが話題(https://sugano.shop/) ― なんでこんなにアホなのか ―
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会