さて本題は、愛想笑いに想いを馳せる、です。私が提唱する想いの馳せ方とは次の通りです。
愛想笑いを「見抜こう」という猜疑心的な考え方ではなく、次のように考えてみてはいかがでしょうか。
コミュニケーション上において自分は「相手に愛想笑いをさせてしまっている」「相手に気遣いをさせてしまっている」と考える。この考え方が自虐的ならば「相手は愛想笑いで自分に礼儀を示してくれている」「自分の話に同調の意を意識的に示してくれてる」と考える。
やっぱりやや自虐的に戻って「自分のつまらない話に愛想笑いで応えてくれる、なんて素敵な人」、こんなふうに考えてみてはいかがでしょうか。
そしてこうしたマインドセットが整ったら次の段階です。純粋な愛想笑いなのかネガティブ表情を隠すための愛想笑いなのかを考えます。
相手が愛想笑いを浮かべてくれているということは、自分は相手に気遣われている存在であるということです。純粋な愛想笑いならば、挨拶や会話の潤滑油として機能するため、取り立てて気にする必要はないでしょう。
しかしネガティブな気持ちを相手があなたにストレートにぶつけられないとき、ここでも愛想笑いが生じます。
特に私たちアジア人にその傾向が強く、集団の和や場の雰囲気を悪くしないように、ネガティブな状況で愛想笑いを浮かべる傾向にあります(電車がアクシデントで長時間止まり、巻き込まれてしまった方がテレビのインタビューで「いや~本当に参りました。」と愛想笑いで答えている場面を見たことがあるかも知れません)。
こうしたとき相手の愛想笑いの隙間に漏洩する表情に注意を向けてみて下さい。一瞬のネガティブ感情の漏れが微表情として生じている可能性があります。愛想笑いの隙間から漏れ出た微表情を見抜くことが出来れば、特に問題のない純粋な愛想笑いなのか、対応あるいは注意すべき愛想笑いなのか見分けることが出来ます。
某店舗での一コマ。店舗スタッフがお客さんに商品説明をしています。お客さんは愛想笑いでうなづきながらそのスタッフの話を聞いています。しばらく説明が続いていると、愛想笑いをしながら嫌悪の微表情が……。
スタッフの説明が長すぎるのか、下手なのか、それとも商品のある特徴が気に入らないのか、その他の情報がなければ特定できませんが、微表情を見抜くことが出来ればこのコミュニケーションの現状維持はマズいということはわかります。
純粋な愛想笑いには愛の目を。隠蔽のための愛想笑いには注意の目を。
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。