米国に移民しようとする要因には根本的に貧困ということが問題である。それに加えて、米国にいる家族と再会する為だったり、暴力グループからの迫害や誘いから逃れるため、家族による暴行やセクハラから逃避するため、或いは成功を夢見てだったり、若者の愉しめる場所の追求だったりといったことが理由としてあるという。残念ながら、中米の各政府はそれに代わるべき如何なるものも提供できないでいる、と前出のカロル・ヒロン氏は指摘している。(参照:「
Prensa Libre」)
米国とメキシコの国境を分かち合っているエル・パソでメキシコ領事を務めたことのあるミゲル・アントニオ・メザ・エストゥラダ氏が、「
Siempre!」紙に語ったところによれば、未成年者の米国への不法移民が急増したのは2014年からだという。その年に米国では全ての未成年者に査証が提供されているという噂が中米を席捲したのである。その噂が影響して、中米から未成年者が米国に向かい、国境では中米からの未成年者が殺到して6万6000人が拘束され、またメキシコ出身者も1万6000人が同じく拘束されたという。
同氏によると、1万5000人以上の8歳から17歳までのメキシコ出身の未成年者に加え、7万人の中米からの未成年者が米国に入国しようとして国境で溢れるようになっているという。
また、特に中米では小さい頃から親や周囲の人たちが不法移民を試みていることから、それがもう習慣化しているのだという。だから、米国に向かうということが当たりまえのようになっているというのだ。
問題は仮に米国に入国しても未成年者ということで身分証明証になるものを持参していない。しかも、国境を通過するには多くの危険を伴うことがある。移民する未成年者の男女比率は3:2だという。
更に同氏が指摘しているのは、未成年者が12時間、14時間或いは18時間もバスに乗って移動するということ自体が無謀で危険極まりないものだとしている。しかも、入国してもそこでは言語は全く異なり生活習慣も異なる。未成年者にとって戸惑うものばかりだという。
仮に入国して勉強しようとしても出生証明書は持っていない。学校で勉強できるとしても、大学となると市民権か永住権を持っていない場合は入学できない。
本国に送還されるとなっても、メキシコに送還される場合は食事代として200ペソ(1200円)とバスのチケットが渡されるだけである。しかし、多くの者は一時的に身を隠して、また不法入国を試すというのである。
トランプの非道、そしてたとえアメリカに着いたとしても困難な状況は変わらない「不法移民」という入国方法。それでもなおアメリカを目指す中米諸国の未成年者たちを本当に守るために、我々は中米諸国を貧困や政情不安に陥らせている根本的原因についても目を向ける必要がある。
<文/白石和幸 photo by Tomas Castelazo,
www.tomascastelazo.com/ Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。