そして、今回、偽大同江ビールの取材を進める中で副産物的に面白い事実を発見することができた。
中朝国境の鴨緑江に面したエリアに並ぶ土産物店でハングルで書かれた金ピカの目立つ缶ビールが売られているのを目にしたのだ。名前は、「慶興ビール」で、500ミリリットル1缶4元(約68円)と同サイズのローカルビールと同じくらいかむしろ安いくらいの低価格で売られていた。
店頭に堂々と置いているが実はこれら慶興ビールはすべて密輸品。本物ではあるが密輸品という点が中国らしく、なぜわざわざ密輸する必要があるのかというと、ビールに使われている原材料が今の中国の検疫基準に引っかかるらしく輸入禁止となっているためである。
1本4元で売られている慶興ビール(丹東在住者撮影)
「実は、かつて2000年代前半まで慶興ビールは中国に正規輸入されていましたが、中国の検疫ルールが厳しくなり基準を満たさたなくなって輸入が許可されなくなりました」(丹東の旅行会社関係者)
慶興ビールは、北朝鮮初の缶ビールとして知られる歴史あるビールだが、15年以上前に中国へ輸出できなくなり丹東の店頭からからも長らく姿を消していたが、最近になって密輸販売されるようになっていたのだ。
大同江ビールは偽物が製造販売されていて、慶興ビールは密輸販売されているというなんともややこしい状況の丹東だが、これらに関わるとされるのが、地元中国人が「華僑」と呼ぶ中国人の存在だ。
本来、華僑とは海外移住後も中国籍のまま現地で経済活動する人たちを指す言葉だが、丹東の華僑はそれとは少し異なり、北朝鮮生まれ、育ちの中国人を指している。彼らは民族的には漢民族や満州族だが、北朝鮮育ちのため朝鮮語がネイティブで、中国語はあまり上手く話せないらしい。そのため、中国人でありながら中国人との関わりは薄く、独自に活動しており、丹東の人間でもその存在を詳しく把握できていない。
「華僑は丹東に1、2万人いるといわれ、彼らが大同江ビール1号の偽物製造や慶興ビールの密輸に関わっていると噂されています。なんせ、私たち朝鮮族とも接点がほとんどないので実態ははよく分からないんですよ」(丹東の朝鮮族貿易関係者)
さすが中朝関係は謎が深く魑魅魍魎の世界のようだ。
<取材・文/中野鷹(TwitterID=
@you_nakano2017)>