「おじさんバッシング」はなぜ異様に盛り上がるのか?<北条かや>

おじさんという存在に権威はもうない

 最後に、おじさんという存在自体から権威が失われたことである。バブル崩壊から90年代後半に始まる不景気を経て、日本はマイナス成長の時代に突入した。この間、企業は中高年世代の雇用を守る代わりに若者を非正規化し、その若者が年齢を重ねて、今や40代の「おじさん」になっている。  ZOZOの田端信太郎さんのように、就職氷河期に遭遇したにもかかわらずハングリー精神で「炎上上等」のグローバルマッチョハイパーエリートビジネスサラリーマンになった例もある。しかし多くのおじさんはあんなに上手くいっていないし、何らかの不満をつのらせている。不景気時代の競争はゼロサムゲームだ。  一昔前のように、おじさんになれば自動的に昇進でき、権威がついてきた時代は終焉した。  中高年男性だからといって会社で存在感を示すことはもうできない。セクハラで辞任した財務省の役人や各種政治家など、いまだに時代錯誤な存在感を示すおじさんもいるが、7割以上のおじさんは経済のマイナスとともに権威を失い、以前のようにふんぞり返ってはいられなくなっている。  かといって昇進はもういい、オレは窓際族だからと開き直るわけにもいかず、「[貯金ゼロ円]の恐怖」(『週刊SPA!』7月17日・24日合併号)に怯え、「スゴい副収入」(同6月12日・19日合併号)を求めて有料noteやアフィリエイトに手を出したりしなければならないのだ。  こんな時代にあって、冒頭で触れた「おじさんLINE」や「エアポートおじさん」は、「オレはおじさんだけど、あんなみっともないことはしない」と、彼らを安心させるネタに使われているのかもしれない。  NewsPicksの「さよなら、おっさん」キャンペーンは、中高年世代が「おじさんだと思われたくない!」という自意識に訴えかけて広まった。そう、数多のおじさんバッシングは、「オレは批判されるようなおじさんじゃない」と思わせてくれる癒やしコンテンツともいえるのだ。  人口のボリュームゾーンであり、決死のゼロサムゲームに巻き込まれているおじさん層。今後、彼らの格差はますます開き、おじさんならではの悲哀を扱うコンテンツは量産されていくだろう。 (本コラムも例外ではないかもしれない)が、一部のおじさんをスケープゴートに、おじさん同士が互いに潰し合う地獄絵図がうっすら透けて見えるのである。 <文:北条かや> 【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。 公式ブログは「コスプレで女やってますけど
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