現在の「おじさん」には、かつてのような権威と威光はもうない。もはやおじさんは弱者側なのである
北条かやの「炎上したくないのは、やまやまですが」その31
昨年は、若い女性の間で「おじさんLINE」が流行っているというネットニュースをよく見た。中高年男性に見られがちな、長文で自己完結したウザい文面を再現して揶揄するのが流行っているという。
他にもおじさんがしがちなSNS投稿、たとえば空港で「行ってきます」と自撮りをする「エアポートおじさん」や、突然送られてくるランチやディナーの写真がウザいとか、若い女性に金品をばらまく「港区おじさん」の目撃情報など、ネットで批判される中高年男性の行動には枚挙にいとまがない。
近年、こうした「○○おじさん」を揶揄したり、生暖かく見守ったりする動きがじわじわ加速している。昨年は元AV女優や新聞記者としても知られる文筆家の鈴木涼美さんが『おじさんメモリアル』(扶桑社)という書籍を出版して話題になった。同著では、彼女が出会ってきた数々の「おじさん」が哀愁たっぷりに描かれている。
つい先日は、ニュースキュレーションアプリのNewsPicksが日経新聞に「さよなら、おっさん」という広告を出してプチ炎上した。「おっさん」という用語が差別的である、いやいや「おっさん」という単語は古い体質を意味する比喩であり、中高年男性の存在自体に罪があるわけではない、など賛否両論のようだ。
なぜこんなにも「おじさん」が注目を集めるのか。それには3つ理由がある。
まず、「おじさん」を40~50代の中高年男性と仮定すると、彼らはとにかく人数が多いということだ。この世代は団塊ジュニア世代、バブル世代とも重なり、人口のボリュームゾーンである。おじさん世代全体にすると2000万人近くいるので、彼らをイジったり批判したりするコンテンツは単純に「バズりやすい」。
SNSで影響力をもつインフルエンサーの中にも40代は多く、彼らの目におじさん関連ニュースが止まれば「我が事」として捉えられ、拡散されやすい。先日も、ブロガーの山本一郎さん(45歳)が「おっさんは差別されてもいいのか~この時代の新しい被差別階級について~」というコラムを公表し、様々な感想が飛び交った。山本一郎さんという「おじさん」がおじさん差別について告発する。彼らの問題意識は切実だから、文章にも力が生まれるのだと思う。
次に、週刊誌読者の高年齢化。ここ最近「おじさん」ネタをよく扱う『週刊SPA!』は、20年前は20代を対象としていたが、年とともに読者層がスライドし、今では40代も多いという。
雑誌の紹介文には「20~30代サラリーマンが今、一番読みたい情報が満載」とあるものの、私も愛読する『SPA!』の特集タイトルを並べてみると「[55歳の壁]に潰される人」(2018年7月3日号)、「ズルい貯金超戦略~40歳から3000万円ためる!一生困らない戦略的なため方とは?」(同6月5日号)、「『純愛おじさん』事件簿~『セクハラよりキツい!』と女子が緊急告発~」(同5月29日号)など、おじさんのサバイバル術や悲哀を描く特集が目白押しだ。
いずれの記事も、誌面がネットニュース化されてまたバズるという循環ができている。