チェ・ホソンは韓国の港湾都市で育った。 　家は貧しく農業と漁業を兼業していた。長男の彼は船に乗り家業を手伝い、荒波と戦いながら強靭な力とバランス感覚を養った。 　水産高校3年の時、ブリの解体作業中に右手の親指を失う事故に見舞われた。絶望に打ちひしがれ2年半もの間全国を回り様々な職を転々とした。 　ゴルフに出会ったのは26歳の時。 　賄い下宿付きのアルバイト求人広告を見て、雑用でも良いからとゴルフ場で働き始めた。そのゴルフ場の経営方針が「職員もゴルフを知らなければならない」という事で、全職員がゴルフをやっていた。 　26歳で初めてゴルフクラブを握った。そしてなんと彼は、プロゴルファーになる夢を抱いたのだ。 　技術的なことなど何もわからない。コーチもいない。親指がない。しかし彼は、クラブに見立てた柿の木の枝を振って振って振りまくった。昼はゴルフ場の仕事をし、深夜と早朝は練習に没頭した。知識的な事。技術的な事。そのほとんどはゴルフ雑誌を通じて得た。そして自分だけのゴルフ理論を確立していった。 　崔虎星は、「今までの人生何一つうまくいったことはない。失敗の連続だったけどゴルフだけは頑張らなければと思った。これが人生のターニングポイントになると信じ、死ぬ気で努力した。雑草のように生きた人生には勝負魂が宿っている」と後にインタビューで語っている。 　言わずもがな、結果は驚くべきものだった。遅すぎるゴルフ人生のスタートであったが、KPGAで二勝をあげた。しかし年齢を重ね、勝つことが難しくもなった。しかしそこで彼は新たな変貌を遂げた。 　崔虎星は日本ツアーに専念したことによって出場権を失った韓国オープンに、予選を通過して参加した。672人が18枚のチケットをめぐって争った予選大会。最終ホール。奇跡のチップインイーグルが、予選通過の一打だった。 　崔虎星のスイングは「タコが木から落ちるようだ」と言われた極端な変則「8の字スイング」のジム・フューリックとも比べ物にならないくらい特異だ。ツアープロの中で史上最高におかしなスイング。 　魅せてこそのプロスポーツ。崔虎星の人生そのものでもある、ゴルフ理論の常識を覆す奇妙なスイングに、ゴルフファンのみならず、多くの人たちが魅せられている。 ＜文・安達　夕　@yuu_adachi＞