ISTの資金不足と、日本の宇宙ベンチャーをとりまく宿痾
また、ロケット開発はリスクも高ければコストも高く、今回のように実際に打ち上げて実験する際はもちろん、ちょっとした試験でも
多額の資金が必要になる。
たとえば、もしISTにもっと多くの資金があれば、エンジンの試験回数をさらに重ね、打ち上げ前に問題が見出だせたかもしれない。あるいは、MOMOの打ち上げ実験も、1号機や2号機で一喜一憂するのではなく、矢継ぎ早に行い、短い期間で完成度を高めることもできただろう。
さらに、同社の現在の
従業員数は20人ほど、平均年齢は30歳と、リソース不足と経験不足は否めない。もし多くの資金があれば、より多くの人材を雇用でき、経験豊かな技術者を引き抜くこともできただろう(余談だが、マスク氏はスペースXを立ち上げる際、米国の大手企業から売却されたロケット部門をまるまる引き抜くようなことを行っている)。
もちろん、資金集めの責任は同社にあることはいうまでもない。しかし、日本は欧米に比べ、ISTをはじめとする
宇宙ベンチャーへの投資額は低い。ISTへの投資額は数千万円単位、クラウドファンディングでもようやく2000万円にいくかというところなのに対し、欧米のロケット企業には一度に数億から数十億円の投資が集まり、クラウドファンディングでも軽く5000万円を達成する例が少なくない。それも、ISTより明らかに実績の少ない企業で、である。
そのような状況の中で、欧米ですらできないような、1回や2回のロケット打ち上げでいきなり成功を収めろ、というのは酷な話だということは指摘しておかねばならない。その点では、今回の失敗はある意味、あるいは悪い意味で当然でもあった。
ISTの従業員数は20人ほど、平均年齢は30歳と、リソース不足と経験不足は否めない 提供: インターステラテクノロジズ
今後ISTには、MOMO 2号機の原因究明とともに、3号機に向けた開発の継続と、商業化、そして人工衛星が打ち上げられるロケット
「ZERO」の開発など、さらに多くのハードルが待っている。
ISTが開発を目指す超小型ロケットに、十分なビジネス・チャンスがあるのは間違いない。そもそも、宇宙にものを打ち上げる手段であるロケットがなければ、衛星の打ち上げや、それを使ったビジネスの展開もままならない。
その実現のために、ISTが資金集めや人材確保などを行うことが必要になるのはもちろん、
彼らを支える環境を整えることも必要になる。ロケット開発は試験と失敗の繰り返しであり、それを経なければ成功はないということを当たり前にし、その上で投資する企業や人を増やさなくてはならない。国の積極的な支援も必要である。
一度そうした環境を整備できれば、たとえISTが倒れたとしても、第二・第三のロケット・ベンチャーが誕生し、成長する土台にもなる。
そのために動き出すのはいましかない。さもなくば、日本のベンチャーによる打ち上げ失敗が、悪い意味で当然になり続けてしまい、そして近い将来、
日本は超小型ロケット、超小型衛星の市場の中で存在感を失うことになるだろう。
ISTがMOMOの次に開発を目指す、衛星を打ち上げられるロケット「ZERO」の想像図 提供: インターステラテクノロジズ
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・【IST】観測ロケット「MOMO」2号機 打上げ実験(10時から記者会見) – 2018/06/30 04:00開始 – ニコニコ生放送(
http://live.nicovideo.jp/watch/lv312787237?ref=sharetw)
・MOMO | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(
http://www.istellartech.com/technology/momo)
・ENGINE | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(
http://www.istellartech.com/technology/engine)
・MOMOユーザーマニュアル(
http://www.istellartech.com/7hbym/wp-content/themes/ist/img/technology/MOMOUsersguidever.0.2.pdf)
・観測ロケット「MOMO」2号機の打上げ実験実施について | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(
http://www.istellartech.com/archives/1394)