ただ、記事自体を見ても、彼の昔からのファンであれば彼の言い回しが多分にアイロニーを含むものであると読み取ることはできるだろうし、彼がトランプを心から支持する人間かどうかもわかるだろう。また、ファンでなくても、それが『ガーディアン』に掲載されているのであれば、少なくとも真意について意見が分かれるものだろう。しかし、『ブライトバート』の読者にとっては、”有名な映画監督がトランプを礼賛した”という表面的な事象だけあれば、リンチの真意などはどうでもよいのである。そして、ナンバーワン読者ともいえる、当のトランプ大統領自身は、ストレートに自分への支持と受け取ったようだ。サウスカロライナ州で開かれた集会では、プリントアウトされたリンチ監督の記事を手に、次のように発言している。
「もちろん、彼のキャリアはおしまいだ。だろ? ハリウッドではね」
「ハリウッドでのキャリアは正式に終わった」
『
ヴァニティ・フェア』は、アンチトランプ色の濃いハリウッドで自分を支持したら仕事がなくなるよ……というジョークに、聴衆は拍手喝采を送ったと報じている。
すっかりご満悦のトランプ大統領だが、はたしてリンチ監督は本当に「史上もっとも偉大な大統領になる」と考えていたのだろうか?
その回答は『ブライトバート』の記事掲載からわずか2日後、リンチ監督本人から発表された。リンチ監督が自身の公式フェイスブックに、トランプ大統領への公開書簡を投稿したのだ。
「親愛なる大統領へ。これ(この投稿)はデヴィッド・リンチが書いています。あなたが『デヴィッド・リンチ監督:トランプ大統領は史上もっとも偉大な大統領になるかもしれない』という見出しのついた『ブライトバート』の記事をリツイートしたのを見ました。あなたと私で腰を下ろして話せればと思います。あちこち回っているこの引用は、ちょっと文脈から外れていて、説明が必要です。残念ながら、あなたがこれまでのように行動すれば、史上もっとも偉大な大統領になるチャンスはないでしょう。これはあなたにとっても、国家にとっても、とても悲しいことです。あなたは苦痛と分裂をもたらしています。まだ舵を切るのは遅くありません。我々の船をみんなにとって明るい未来に向けてください。あなたはこの国を団結させることができます。あなたの魂は歌声をあげるでしょう。愛情に満ちたリーダーシップのもとでは、誰も敗北しません。みんなが勝利するのです。それについて、よく考え、心から受け止めてほしいと望んでいます。あなたがすべきことは、自分を扱ってほしいと思うように、みんなを扱うことだけなのです。敬具、デヴィッド・リンチ」
トランプ大統領はもちろん、一部の米保守系メディアも「もっとも偉大な大統領になる」という部分ばかりを取り上げていたリンチ監督の発言。蓋を開けてみれば、“ベタ褒め”とは真逆の意図だったことが明らかとなった。
トランプ大統領にとっては、バッドエンドで終ってしまった今回の騒動。リンチ監督への反論で“続編”が生まれるか、映画ファン以外からも注目されそうだ。
<取材・文・訳/林泰人 photo by
Gabriel Marchi via flickr(CC BY 2.0) >