貿易戦争の米中に日本的「配慮」は通用しない。世界の貿易秩序を優先した外交をすべき

「北朝鮮問題での借り」が背景か?

 日本がWTO提訴を躊躇するもう一つの背景に北朝鮮問題があるようだ。米朝首脳会談でトランプ氏に拉致問題を取り上げてもらい、ある意味、借りがある立場だ。米朝首脳会談が終わったとたんに、米国に対して拳を挙げづらいのかもしれない。  しかし、これでは自ら安全保障と通商をリンクして考えているようなものだ。日本は対米配慮をしているつもりだろうが、所詮駆け引き、ゲームとしか捉えていないトランプ氏が「配慮」されていると好意的に受け止めるだろうか。そもそも同盟国に対してまで関税引き上げの拳を挙げていることを忘れてはならない。こうした相手にはルールに基づいた対応を淡々と行うのが得策だ。

本丸は自動車問題

 さらに日本が深刻に考えなければならないのは、鉄鋼問題の次に自動車問題が控えているということだ。前述のとおり、自動車でも鉄鋼と同様の関税引き上げの調査に入っており、中間選挙前にもトランプ氏が決定する可能性も高くなっている。ここできちっとしたルールに基づく対応をして牽制しておかなければ、日本は自動車問題で大きな代償を支払うことになるのだ。その影響は鉄鋼とは比べ物にならないくらい大きい。  しかも7月から日米間では新経済協議がスタートする予定だ。その焦点は自動車と農業分野の市場開放だと報道されている。これは米国側の発言を鵜呑みにしたものだ。農業は確かにTPPから離脱した結果、例えば牛肉の関税で相対的に不利になって、米国産が競争力を失うことへも危機感がある。トランプ政権としては中間選挙を控えて、票田の中西部の畜産業界の不満に対応する必要があるだろう。  しかし自動車は様相がまるで違う。日本に対しては、非関税障壁を問題にするが、米国のセリフは20年前とほぼ同じだ。その後、日本市場でシェアを伸ばしているのはドイツ車で、ビッグ3は諦めて日本市場から撤退しつつある。  そうした中で、米国の本音は収益源の米国市場を守ることにある。農業分野で守勢に立たされる中、自動車分野は逆に日本が米国の自動車関税を攻める分野だ。それをわかっている米国は、日本からの関税引き下げ要求をかわすために日本市場の閉鎖性をわざと言い続けているのだ。  しかもここで逆に、米国は自動車の関税引き上げを言い出して、強烈な牽制球を日本に投げている。投げられた球は打ち返す必要がある。日本は当然WTO提訴で立ち向かうべきだ。WTO提訴しても時間がかかるという指摘もあるが、それは本質ではない。時間がかかってでも、筋を通さなければ将来に禍根を残す。
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対中WTO提訴にも及び腰
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