貿易戦争の米中に日本的「配慮」は通用しない。世界の貿易秩序を優先した外交をすべき

細川昌彦

通商交渉の「交渉カード作り」にしか関心がないトランプ氏

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写真/thierry ehrmann

 米中貿易戦争がまさに現実のものになりつつある。しかもトランプ政権が高関税を振りかざして要求を飲ませようとする相手は、本来のターゲットであるはずの中国にとどまらない。鉄鋼、アルミニウムで関税引き上げでは日本だけでなく、一時発動を猶予していた欧州連合(EU)やカナダ、メキシコに対してまで、発動を決めた。通商交渉でこれらの国々から譲歩を引き出せなかったことからだ。

 さらにトランプ大統領は鉄鋼で味をしめて、自動車についても、鉄鋼同様に通商拡大法232条に基づき、“安全保障”を理由にした追加関税を課す輸入制限の検討に入ることを発表した。これもEUとの通商協議や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉さらには日本との2国間協議で譲歩を引き出す思惑からだ。

“安全保障”理由というのは単なる口実で、取引のための「交渉カード作り」が目的だ。こうしたトランプ政権にどう対応すべきか。日本の対応がどうも煮え切らない。

対米WTO提訴に躊躇する日本

 鉄鋼についてはEU、カナダ、メキシコは一斉に報復関税を課すとともに、WTO違反だとしてWTOへの提訴を打ち出した。鉄鋼製品にまで安全保障を口実に輸入制限をするのは明らかにやり過ぎで、当然WTO違反だ。これを許せば、WTOの貿易秩序自体を揺るがすことになる。

 ところが日本はどうだろうか。未だWTOへの提訴を躊躇している。

 恐らく米国への代替品供給が難しい鉄鋼製品は品目として除外されるので、日本からの鉄鋼製品の多くは除外される可能性が高いと見込んでのことだろう。実害を少なくするという実利を取るという戦略ともいえる。

 しかし問題の本質は実害の大小ではない。貿易秩序を守るという中長期的な視点こそ大事ではないのか。

 この点で、共通の利害を有するEUと共同歩調を取ることが優先されるべきだろう。EUはWTO提訴を「国際ルールに基づく貿易システムを守るためだ」と強調している。

 これこそ日本が言うべきセリフだ。むしろ貿易秩序を守ることが国益であるはずの日本が唯一WTO提訴しないと、世界から貿易秩序を守る本気度を疑われよう。

 さらに中国への波及も忘れてはならない。これまでの中国を見ていると、将来、中国が“安全保障”を口実にして輸入制限する恐れも十分あるのだ。米国の今回の措置を見逃していると、将来の中国に対する歯止めもなくなることも忘れてはならない。

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「北朝鮮問題での借り」

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