アルゼンチン代表、もがき苦しんでの予選突破。メッシが陥る「王の孤独」

サンパオリ監督の苦悩と「王」の孤独

 アルゼンチン代表監督サンパオリは2015年のコパ・アメリカでチリ代表の監督を務め、決勝戦は自国のアルゼンチンを破って優勝した実績を持っている。また、スペインのセビーリャの監督の時も優秀な成績を上げていた。その時はメッシのいるバルセロナの監督になる話も噂されていた。  ところが、アルゼンチン代表の監督という誘いを受けて、シーズン中にセビーリャの監督を辞任してアルゼンチン代表の監督に就任した。彼への期待が如何に強いかというのを示すかのように2022年までの契約で、年俸700万ドル(7億5600万円)で非課税とされた。この年俸の500万ドルが監督そして200万ドルは彼が同伴するコーチ陣に支給されるとした。  アルゼンチンサッカー連盟のサンパオリへの期待が強かったのは、それまで10年間に代表監督に6人が就任していたのである。どの監督も良い業績を上げていなかった。マラドーナもそのひとりだった。(参照:「El Pais」)  クロアチア戦に敗退したあと、次のナイジェリア戦にサンパオリを解任して彼が指揮をとらないようにという要望も聞かれた。しかし、彼を解任すると、アルゼンチンサッカー連盟はおよそ1600万ドル(17億3000万円)を賠償金として支払う義務が発生することになるので彼の解任は当面は予想されていないという。(参照「infobae」、「La Nacion」)  サンパオリ監督がクロアチア戦に敗退した後の記者会見で、彼は敗退の責任は全て自身にあると認め、「メッシの為のチームを編成できなかったことでメッシは苦しんだ。その為の選手を見つけることが監督の務め。レオに信頼できるチームを探すことであった」と答えたのである。(参照:「Ambito」)  即ち、これこそディエゴ・シメオネの問のサンパオリ監督のアンサーである。メッシの為のチームにすることだというのだ。チームワークという事よりも、メッシのために働く選手で代表チームにするというのが監督の務めだというのである。このような考え方がアルゼンチン代表サッカーの常なる基本であった。  このフィロソフィーを導入したのはセサル・ルイス・メノティ監督であった。マラドーナ、バレンシアで活躍しマタドールと呼ばれたケンペス、そしてメッシと常に得点能力の高い一人の選手を軸として、それに回りの選手が尽くす役目である。だから、現在の代表では「ボールをメッシーに回せ」と言うのが常語だという。彼にボールをパスすれば、彼が解決してくれるというフィロソフィーである。(参照:「El Pais」)  しかし、クロアチア戦ではメッシーは僅か11回パスを受けただけであった。しかも、彼に2回以上パスした選手はいなかった。また、メッシーも20回ボールに触れただけであった。これでは得点するのは殆ど困難である。
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