宇宙にものを打ち上げるには、莫大なエネルギーが必要になる。そのためロケットには、強力なパワーを出せるロケットエンジンを装備したり、機体をできる限り軽く、丈夫に造ったりしなくてはならず、それゆえにロケットはきわめて高価な乗り物となっている。
現在、大きな衛星を打ち上げるのに数十億円、小さな衛星でも数億円の金額が必要。マスク氏の宇宙企業「スペースX」などはロケットの機体を再使用するなどして、さらなるコストダウンに挑んでいるが、それでも億の単位を切る見込みは立っていない。
そこでスピンローンチは、
巨大なカタパルト(投射機)を使う方法を考えているという。詳細は不明なものの、円形に配置したレールを使って小型のロケットを加速させる。そして猛スピードで打ち出され、大気圏を貫くように飛んで宇宙空間に到達。最終的に小型のロケットを使って、地球を回る軌道に乗るのだという。
言い換えれば、ロケットが地上から飛び立ってしばらく飛行するまでの段階を、カタパルトによる加速で置き換える、ということになる。ロケットが地上から飛び立つ際には最も強力なパワーが必要で、エンジンや機体も大きくなる。だからこそスペースXなどは、その最初の段階で使う機体を回収して再使用しようとしているわけだが、スピンローンチはそもそもそれを不要にしようというのである。
Yaney氏がTechCrunchに語ったところによれば、この仕組みを使うことで、
打ち上げコストを従来の10分の1~200分の1にまで引き下げたいという。
ロケットが地上から飛び立つ際には最も強力なパワーが必要で、エンジンや機体も大きくなる。だからこそスペースXなどは、その最初の段階で使う機体を回収して再使用しようとしているが、スピンローンチはそもそもそれを不要にしようとしている (C) SpaceX
もっとも、このアイディアにはさまざまな問題がある。
地上には濃密な大気があるため、カタパルトで加速するには膨大なエネルギーが必要になるし、なにより加速できるスピードには限界もある。大気中で加速するならいわずもがな、たとえば真空のトンネルの中で加速して打ち出すにしても、トンネルから出た瞬間に空気の壁にぶつかり、速度も落ちる上にかなりの衝撃が加わる。
また、地球を回る軌道に到達するには、おおよそ秒速10kmの速度が必要になる。しかしカタパルトでは、空気抵抗やエネルギー変換効率などを考えると、どうやってもその15%程度までしか加速することができないため、あまり助けにはならない。
さらに、それだけのエネルギーを投入することは不可能ではないかもしれないが、そのための設備や電力を考えると、普通にロケットで加速する場合と比べて本当にコストダウンができるかは疑問が残る。
実際、これまでも米国航空宇宙局(NASA)などが、レールガンなどを使ってロケットを打ち上げるシステムの研究・開発を行ったことがあるが、どれも実用化には至らなかった。
もちろん、スピンローンチにはなんらかの秘策があるのかもしれない。とはいえ、空気抵抗や重力など、この世の原理・原則となる現象が限界としてのしかかっている以上、ここ数年で技術革新は進んだとはいえ、それを打ち破ることはファンタジーに近い。
NASAがかつて研究していた、リニアモーターカーで加速して打ち出すロケット。実用化には至らなかった (C) NASA
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