昨今、差別的な主張をした有名人が炎上し、仕事にダメージを受ける例が相次いでいる。
先日も、人気ライトノベル作家の「まいん」氏が、2013年頃からヘイトスピーチを繰り返していたことが判明。10月に放送予定のアニメ版の声優たちが次々と降板した。まいん氏はツイッター上で謝罪したが、出版元のホビージャパンは6月6日、人気作品の出荷停止を公表した。
芸能事務所を解雇される、ヒット作が出版停止に追い込まれるなどの制裁に対し、「やり過ぎ」「過去のツイートを蒸し返されてかわいそう」などの声も、あるにはあるだろう。ネット上では、人気バンドRADWIMPSの曲『HINOMARU』が愛国主義的な軍歌のようだと批判された件と合わせて、「言論の自由を奪うな!」と主張する人もチラホラいる。
もちろん、商業的なヒットを狙って考え抜かれたRADWIMPSの新曲と、16歳のモデル志望高校生がツイートした「妊婦さんに膝カックン」「韓国人ビンタしたんでお金ください」などの「バカッター」を単純比較することはできないし、RADWIMPSに失礼だ。しかしここ1年ほど、ネット世論が急速に差別への意識を高めているのは紛れもない事実である。
欧米では5年ほど前から、ハッシュタグ・ムーブメントともいえる動きが加速してきた。
警察官が白人よりも明らかに多くの黒人を射殺し、無実の命が失われている米国では、「#Black Lives Matter(黒人の命“も”大切だ)」と主張するハッシュタグをきっかけに、各地でデモが行われた。
人種差別への意識は一部で高く、今年5月にはABCテレビが、人気コメディー番組の主演女優による「おぞましい」ツイートを理由に、番組の打ち切りを決めた。その女優やテレビ局には大きなダメージだが、社会的な影響を考えてのことだろう。性差別に泣き寝入りしないと主張する「#MeToo」の広がりは言わずもがなだ。
こうした動きが世界的に広まるのは、SNSの発展とともに差別発言やヘイトスピーチが増えているからだろう。性差別はもちろんのこと、アメリカでは有色人種やイスラム教徒への差別、日本では朝鮮半島の人々への差別がやまない。
フェイクニュースに象徴されるデマを、本気で信じている人も多い。だからこそ、当時16歳だったとはいえ差別的な発言をした売出し中のモデルは「干される」し、人気ラノベ作家は出版停止の憂き目に合うのだ。
彼らはたまたま発掘されただけであり、彼ら以外にも問題発言を繰り返していた有名人は多いだろうが、日本だけが差別発言を野放しにしていいわけではないので仕方がない。
「言論の自由」を履き違えないようにすること、差別発言を撒き散らして自尊感情を高めるやり方は、じりじりと自分自身の良心をすり減らすだろうということ。
何よりネット空間が匿名ではないということを、多くの人が肝に銘じなければならない。
<文:北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」