ヨルダンは国を豊かにする自然資源はなく産業国でもない。石油も輸入に頼らざるを得ない国である。エジプトでムバラク前大統領が崩壊した以後、ヨルダンまでの石油輸送が襲撃の対象となっており、燃料コストが甚大な規模になっている。その総コストは50万ドル(5400億円)にまで上るという。ヨルダンの国家予算は104億ドル(1兆1200億円)なので、この累積損害額は重要である。(参照:「
El Medio」)
そのため、ヨルダンは財政改善策としてIMFから2016年に7億2300万ドル(780億円)の融資を受けた。その交換条件として提示されたのが、増税をすることであった。8000ディナール(120万円)以上の所得者に5-20%の税金、法人税は最高40%を課すとしたのである。(参照:「
Arabia Watch」、「
El Pais」)
ヨルダンの生活物価は高く、首都アンマンはマドリードやバルセロナ以上だという。しかも、シリア紛争でシリアから100万人の難民がヨルダンに流入している。それに加えてエジプトやイラクからの難民もいる。失業率は18%以上。このような生活事情の中での増税は多くの国民を不満にさせた。それを外部から煽って抗議デモを誘ったのがイスラエル、米国、サウジアラビアの企みだというのだ。(参照:「
Hispan TV」)
アブドラ国王は抗議デモを鎮静化させるために首相を交代させた。しかし、増税策を変更しようにもIMFへの返済を考慮するとそれも容易には出来ない。なにしろ、負債はGDPの94%もあるのだ。(参照:「
El Pais」)
この様な事情を抱えているヨルダンに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートの3か国は25億ドル(2700億円)を提供することで合意した。狙いは、アブドラ国王がイスラム協力機構に出席して表明した姿勢に反省を促すためである。この資金支援の隠された条件は、今後は以前通りにサウジアラビアを中心にした湾岸諸国の外交に歩調を合わせるようにという要請である。
また、この支援資金によってIMFに負債を返済し、増税を避ける。そうすることによって、他の湾岸諸国が恐れている「アラブの春」が、ヨルダンを起点に周辺国に波及することを避けることができる。同時にEUにとってもヨルダンは中東の要の国だ。EUはヨルダンに2000万ユーロ(26億円)の支援金の提供を約束した。(参照:「
Arabia Watch」)
一方、この動きを牽制して同じようにヨルダンに支援金を提供することを誓ったのが、サウジアラビアなどから封鎖を強いられているカタールである。カタールは5億ドル(540億円)の経済支援を約束し、カタールでヨルダン人の為に1万人の職場を用意するとした。カタールは、ヨルダンが湾岸諸国の前に、できるだけ中立的な姿勢を維持してくれることを望んでいるのである。(参照:「
Arabia Watch」)
大国の思惑の中で翻弄されるヨルダン。その動き次第で中東の今後が変わってくるので、注視しておくべきだろう。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。