「人は見た目が9割」の「9割」は、残り1割の「話す内容」を引き立てるためにある

人の印象を決定する要因の9割は、視覚・聴覚情報!?

身だしなみ もう10年以上前、「メラビアンの法則」を用いた『人は見た目が9割』(新潮社)という本が出版されました。ちょうど、オバマ大統領の颯爽としたスピーチや、スティーブ・ジョブズの“魅せるプレゼン”があった時期とも重なり、100万部を超えるベストセラーとなった本です。 「メラビアンの法則」とは、アメリカの心理学者であるアルバート・メラビアンが提唱した、非言語コミュニケーションの重要性を説く法則のこと。彼は、「人がメッセージを発したときに相手が受ける印象は、どの情報が最も参考にされているのか」ということを、実験を行って計測しました。その結果は次のようなものでした。 視覚情報55%(身だしなみ、しぐさ、表情、態度や目線など) 聴覚情報38%(声のトーンや大きさ、挨拶や言葉遣いなど) その他の情報7%(話の内容など)
グラフ

メラビアンの法則

 この「印象を決定する要因の9割以上は、非言語コミュニケーション(視覚・聴覚情報)」という部分が一人歩きしてしまい、「まずは見せなければ。インパクトやアイキャッチが大事」と、見た目ばかりを熱心に作り込み、話の内容(コンテンツ)は二の次になった時期がありました。

「伝える内容は重要ではない」という「メラビアンの法則」の誤解

スピーチ その後2013年、2020年のオリンピック開催都市を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京の華麗なる招致プレゼンが注目を浴びました。この時は、多くの日本人が自分ごととして、プレゼンの必要性をリアルに意識したタイミングだったかもしれません。  ボディランゲージや言葉のインパクト。惹きつける目線の配り方や登場の仕方。「あそこまで派手にやってもいいのか!」と驚いた人も多かったでしょう。内容よりもやはり、そちらのほうが話題をさらいました。自分をどう見せるか、どう演出するかといった視覚効果がさらに重要視されるようになっていったのです。  私はちょうどこの時期、スピーチやプレゼン、声や印象をテーマにしたセミナーの講師をしていました。その参加者にも、話の内容を重視している人は少なかったという記憶があります。  この「メラビアンの法則」、もちろん有効な法則ではあるのですが「言葉では、伝えたいことの7%しか伝わらない」といった、間違った解釈をしてしまっている人が多いようです。  メラビアンが行った実験には、「話している内容、表情やトーンに矛盾があった場合」という前提があり、「その場合、受ける印象はどの情報を最も参考にしているのか」というものでした。つまり、実験結果が示しているのは「伝えたい内容を効果的に伝えるには、非言語コミュニケーションが重要だ」ということであって、「伝える内容は重要ではない」ということではないのです。  人は「デリバリー・スキル」といわれる非言語コミュニケーション(メラビアンの法則でいう9割の部分)と、話す内容(1割の部分)の、トータルでメッセージを発しています。どちらも軽視していいものではありません。  伝えたい内容(コンテンツ)とデリバリー・スキルは、本来両輪で機能すべきもの。デリバリー・スキルだけ磨いて、コンテンツに中身がなければ意味がありません。どちらにウェイトを置きすぎても、最大限の効果は得にくくなります。
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9割はあくまでも話す内容の「引き立て役」
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アメリカの大学生が学んでいる「伝え方」の教科書

ハーバード大学をはじめとする1000校以上のアメリカの大学で20年以上使い続けられているアメリカでもっとも定評のある教科書を初翻訳

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