足立康史衆院議員による是枝裕和監督『万引き家族』と科研費バッシングへの対応の圧倒的な正しさ

科研費騒動は国会でどう扱われたのか?

 その後、5月22日には田村智子参院議員、6月12日には吉良よし子参院議員という共産党所属の議員2名により、国会の場でこの科研費騒動をめぐる質疑が行われた。田村議員は昭和10年の天皇機関説事件を引き合いに出しながら、憲法第23条の保障する「学問の自由」への侵害であると杉田議員を名指しで批判し、政府としての見解を求めた。また吉良議員は、日本国憲法制定時の国務大臣であった金森徳次郎が、昭和21年7月16日の衆議院帝国憲法改正案委員会において答弁した憲法第23条の立法趣旨が、学問に対する国家からの一切の干渉を排除する点にあることを確認した上で、改めてこの科研費騒動に対する政府見解を示すよう求めている。  いずれの質疑も、近代日本がこれまでに辿った歴史的経緯を踏まえた聞き応えのあるものだったが、林文科相らの政府答弁は要するに「科研費は研究者の自由な発想に基づく研究を支援するものであり、専門家同士の厳正な審査をへて採択され、適正に執行されている」というもので、杉田議員による2月26日の質疑でも用いられたテンプレート回答を基本的に踏襲する形であった。  田村議員の質疑が行われたのは内閣委員会、文教科学委員会連合審査会だが、田村議員に先立ち、自民党の和田政宗参議院議員が科研費制度をめぐる一連の質疑の締めくくりに突如として「政府見解とは異なり、従軍慰安婦の強制連行があったとする研究になぜ科研費が与えられているのか」との質問をしている。とはいえ政府答弁はやはり先のテンプレ回答をなぞったものであった。和田議員は「更に私も調べて聞いていきたい」などと述べているが、その後、同氏は科研費についてかたく沈黙を守っている。  和田議員は当該質疑について「ジャブ」などとネット番組で述べているようだが、すでに杉田議員の質疑から3か月近く経つというのに、いまだに明後日の方向へのジャブ程度しか繰り出せないのであれば、これはネット上をイナゴのように飛び回る「自称保守」の連中へのエサ撒きパフォーマンスであったと評するほかあるまい。国会での貴重な質疑時間の浪費は慎んで貰いたい。

杉田水脈議員の主張こそ政府見解と異なる

 質疑において田村智子議員が「こうした(杉田議員の)質問に対しては良識を持っていさめると、こういう姿勢も必要だ」と、従来のテンプレ回答からさらに一歩踏み込んだ答弁を林芳正文科相に求める場面があった。その時の林文科相の以下の答弁に注目したい。 “私、そのときも今お触れいただいたような答弁はいたしたつもりでございますが、通常、国会の審議で質問の内容について答弁側が何か申し上げるということはなかなか難しいんではないかと。国会議員としての責任を持った発言、それぞれがそれぞれの考え方に基づいておやりになっているということであろうかと、こういうふうに思いますので、私どもとしては、政府としてしっかりと、我々としてやっておること、我々の立場を御答弁申し上げるということではないかと思っております。”  この「そのとき(杉田議員の2月26日質疑)も今お触れいただいたような答弁はいたしたつもり」との答弁は重要である。確かに林文科相はあくまで政府としての立場を述べるに留めるとの態度は崩していない。しかし、ここでの林文科相の答弁は実質的に「政府見解と異なる立場からの研究に科研費を支給すべきではない」との杉田議員の主張こそが、政府見解とは異なると明言したに等しいのだ。  杉田議員は政府見解と異なる研究を行う学者の活動を「反日プロパガンダ」と呼ぶが、その論法で言えば、杉田・和田両議員、そして産経新聞による科研費騒動もまた「反日プロパガンダ」と呼んで差し支えないことになろう。  さらに言おう。そもそも科研費に関して政府見解と異なる主張をしている自分自身に、税金を原資とする多額の歳費が支払われていることを、果たして杉田議員はどのように理解しておられるのか。エンピツ一本の購入にも領収書や第三者による検収等が必要な科研費とは異なり、杉田議員の受け取っている文書通信交通滞在費(年間1,200万円)には一切の証拠書類の提出義務がない。杉田議員はいつまでたっても実在を立証できない「科研費の闇」などよりも、ご自身の「議員歳費の闇」をこそ見つめるべきではないか。
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