首相官邸Web Siteより
今月カナダで行われたG7(先進7か国)首脳会議。「トランプ米大統領対欧州勢」という構図が印象的だったが、国内の一部報道では、トランプ米大統領やドイツのメルケル首相が「シンゾー」と親しげに助言を求める姿や、北朝鮮関連の議論を主導したと強調され、安倍がアメリカと欧州の調整役を果たし、八面六臂の大活躍だった! バンザイ! とでも言うような論調が報じられると、SNSの右派クラスタを中心に拡散。それを受けて反安倍勢は「ガラパゴス報道」と揶揄するなど、盛り上がりを見せていた。
そんなに我が国の首相が大活躍したならば、海外メディアにおける報道でも「ABE」の文字が乱舞し、絶賛の嵐なのでは? と期待しつつ英語を筆頭にスペイン語やドイツ語などのメディアにも目を通して、我らが安倍首相の活躍を探してみた。
しかし、海外メディアの報道を見ると、八面六臂の大活躍だったはずなのに、どうにもその姿が報じられていない……。
まずはアメリカの主要メディアを見てみよう。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の「
G7の裏側 トランプのジャブが同盟国を落胆させる」という記事では、対米関係に亀裂の入った
カナダのトルドー首相、
なんとか関係を取り持とうとするメルケル独首相が登場。さらにアメリカの立場が不公平だと主張するトランプ大統領に対して、どちらの市場も不均衡になると
フランスのマクロン大統領が反撃する様子が伝えられている。
あれあれ? 調整役として安倍さんが大活躍したんじゃないのか??
安倍首相の名前がやっと出てきたのは記事の中盤。移民についてトランプ大統領が「シンゾー、日本に移民問題はないが、私は2500万人のメキシコ移民を送り込むことができる。そうすれば、君はすぐ退陣することになるだろう」と言い放った部分だ。この発言は他国のメディアも取り上げており、G7での日本関連ニュースでは、もっとも話題になっている。
さらに残念なのは、このニュースを報じる記事に安倍首相の反論が見当たらなかったことだ。実際にはどうだったかわからないが、少なくとも報道では“言われっぱなし”の状態。トランプ大統領の暴言とも言えるコメントを安倍首相がどう感じたかは気になるところだ。
また、同じ『ウォール・ストリート・ジャーナル』では「
トランプのロシアへの呼びかけがG7を揺るがす」という記事も。こちらはロシアをG7に入れるべきだというトランプ大統領の主張がテーマで、
マクロン仏大統領、メルケル独大統領、ドナルド・トゥスク欧州理事会議長らの名前が挙がっている。日本については「貿易に関してはEUと協調路線にあり、アメリカには関税について考え直すよう求める」という
政府関係者のコメントが紹介されているが、安倍首相の名前は見当たらなかった。
続いて『USAトゥディ』には、「
トランプがG7に危機を呼ぶ 同盟国を攻撃し、ロシアを受け入れ」、「
G7のトランプ大統領写真:各国の写真が異なる様子を伝える」などの記事が。後者は
メルケル首相がトランプ大統領に詰め寄る様子を各国首脳・機関が違った角度の写真で発表しているという内容。日本でもSNS上で多くシェアされていたので、目にした人も多いだろう。
この「トランプ大統領と対峙する各国首脳陣」という構図は、G7を象徴する一幕として、さまざまな海外メディアが取り上げていた。しかし、これらの記事でも主役はあくまで
メルケル首相とトランプ大統領。安倍首相にフォーカスした記事は見当たらなかった。
同じく米大手メディアである『ニューヨーク・タイムズ』は「
大統領、同盟国首脳陣との声明に署名拒否」とともに、トランプ大統領がG7の開催地・カナダを去ったあと、米朝会談に向かうエアフォースワンの機内で投稿したツイートを紹介。
トルドー首相との軋轢を取り上げた。
「カナダのジャスティン・トルドー首相は、G7の会談中はとてもおとなしく、穏やかだった。私が去った直後に記者会見を開き、『アメリカの関税は侮辱的で、振り回されない』と言ったが、とても不誠実で弱い男だ」
同記事ではこのツイートをフックに、アメリカ=カナダ間の関税についての不一致が解説されていた。安倍首相の名前は出てこず、「トランプ大統領は各国首脳との個人面談で、アメリカの立場がいかに不公平か訴えた」という部分で
「ジャパン」のひと言が出てくるだけだ。
「ドナルド」「シンゾー」と呼び合い、トランプ大統領と親密な関係にある……。日本ではそんな対米関係ばかりが報道されているが、こと米メディアのG7を報じる記事には「シンゾー」の名前は、まるで登場しなかったようなのである。