では、欧州メディアではどうか? イギリスの『ガーディアン』は「
G7マイナス1:トランプがカナダでのサミットに向け鉄球を準備」と、
トルドー首相、メルケル首相とともに、安倍首相が「窮地に立たされる」と記している。しかし、ここでも
安倍首相は「ワン・オブ・ゼム」な扱い。「各国首脳陣の関係を取り持った」という記述は見られなかった。
また、「
貿易問題でトランプに対抗するよう、マクロンがG7加盟国に呼びかけ」という記事では、
トランプ大統領がカナダに向かう前に安倍首相と会談したことが紹介されている。同記事はG7後の米朝会談にも触れているが、「マクロン大統領が北朝鮮との交渉を支持している」という内容にとどまり、安倍首相の名前は挙がらず。日本も当事者である北朝鮮問題ですら、安倍首相が登場しないのは寂しい限りだ。そのほか、イギリスメディアでは、タブロイド紙のウェブサイトで名前が挙がる程度だった。
そしてやっと、安倍首相の主体性が感じられる記事を発見した! 報じているのは意外にもG7開催国・カナダの『ナショナル・ポスト』の記事だった。「
NAFTA(北米自由貿易協定)の状態は良好」はTPPに言及しており、安倍首相とトルドー首相が協力関係にあって、トランプ大統領は孤立しているというニュアンスを強調していた。
「トランプは12か国が加盟するTPPからも離脱。G7のカナダと日本を含む11か国が、アメリカ以外で独自の自由貿易圏を推し進める様子を眺めてきただけだ。(中略)カナダ政府の関係者によると、金曜日にはトルドー首相と安倍晋三首相が迅速に施行できるよう話し合ったとされる」
この文面は「密接な日米関係」とは真逆の内容だが、安倍首相がTPP交渉において“プレイヤー”であったことは読み取れる。「私自身、TPP断固反対と言ったことは1回も、ただの1回もございません」と述べるだけのことはあって、しっかりとその活躍が報じられていた。日本の農業関係者の皆さん、安倍首相及び自民党はTPPを頑張って推進しているようです!
しかし、“大活躍”が報じられていたのは、カナダ紙のTPPに関する部分のみ。フランスの『
ル・モンド』、ドイツの『
ディ・ヴェルト』などの記事には、名前すら見当たらなかった。
また、当サイトでスペイン語圏のニュースを報じてくれている白石和幸氏の協力を仰ぎ、スペイン語圏の主要メディアでの報じられ具合も探してもらったが……。
「スペインの主要紙である『El Pais』から始めて、アルゼンチン、メキシコ、コロンビアとチェックしましたが、Abeの名前はどこにも見当たりませんでした。トランプ、トレドー、マクロン、メルケルの名前の記載が見つかり、彼らのサミットで語ったことや姿勢について言及されています。しかし、安倍、メイ、コンテの名前はどこにも見当たりません。これら主要紙で安倍の記載がないので、それ以上の追求はやめました。やはり、安倍首相の活躍? は日本の紙面しか取り上げられないでしょう。それだけサミットでの安倍首相の重みはないということでしょう。残念ですが」(白石氏)
公平を期するなら、白石氏も言うように、G7関連の記事で黙殺されていたのは安倍首相だけではなく、イギリスのメイ首相、イタリアのコンテ首相の発言・動向は、まるで取り上げられていなかった。また、かなり頑張って探したがうっかり見逃した記事もあるかもしれない。
それにしても、あたかも安倍首相が中心的な役割を担ったかのような報道をしているのは、世界でも日本だけ。もちろん、自国の宰相の動きを報じるのも重要であるが、根拠がないかのような礼賛、バンザイだけをしていて、その現実を踏まえることをしなければ、外交で同じ土俵には立てないのではないだろうか。
<取材・文・訳/林泰人>