ケインズもサミュエルソンもフリードマンも株をやっていた
ジョン・メイナード・ケインズ。イギリスの経済学者で、マクロ経済学の創設者として知られる(写真/ウィキメディア・コモンズ)
私が株に興味を持ったのは、海外の著名な経済学者が株や為替、商品などの取引に関心を持ち、実践してきたことを知ってからです。株や商品取引などでそれなりの成果を上げた学者として、イギリスのジョン・メイナード・ケインズが有名です。
ケインズといえばマクロ経済学の創設者として知られていますが、象牙の塔に引きこもる純粋培養型の学者ではありません。官僚、実業家、投機家などの顔を持つ実務家でした。若いころから株式投資や為替、商品取引などに興味を抱き、実践し、成果をあげています。
ケインズが母校・ケンブリッジ大学の財政立て直しのため、同大の正会計官に就任したのは1924年、41歳の若さでした。それまで大学の基金運用は法律によって信託証券と土地に限定されていました。ケインズは法律が定める正規の基金とは別に、大学が裁量権を持ち、運用できる別のファンドを立ち上げました。そのうえで政府証券、外国政府証券、さらに株式投資や商品投機まで運用対象を広げ、辣腕を発揮して財政立て直しに成功しました。それが評価され、終生、同大学の正会計官の地位を保持することになりました。
もう一つ忘れられないことがあります。私は駆け出しの記者だった1970年頃、日本経済研究センターから1年間、米国・ニューヨークのマンハッタンにある民間の経済研究所、カンファランスボード(CB)に、トレーニー(研修生)として出向、経済予測の勉強をしていました。
その頃、新聞社のニューヨーク支局長のYさんが、著名な経済学者、ポール・サミュエルソン教授(マサチューセッツ工科大学)、ミルトン・フリードマン教授(シカゴ大学)に相次ぎインタビューすることになり、「めったにない機会だから」と声をかけてくださり、同席させていただいたのです。
サミュエルソン「理論を実証するためにも、株取引は大切だ」
ポール・A・サミュエルソン。アメリカの経済学者で、1970年にノーベル経済学賞を受賞。(写真/Innovation & Business Architectures, Inc. ライセンスはCC BY 1.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/1.0)ウィキメディア・コモンズ経由で)
インタビューが始まる前の雑談でサミュエルソン教授は、名前は憶えていませんが「どこそこの株を売ってかなり儲かった」という話を得意気にしていました。「理論を実証するためにも、株取引は大切だ」という趣旨のことを言っていたのも覚えています。
別の日、フリードマン教授とのインタビューの時でした。インタビュー途中に突然電話がかかってきました。フリードマン教授はインタビューを中断し、電話の置いてある近くのデスクに腰を掛けて、証券会社らしき相手に対し、大きな声で手を振り上げながら「今すぐ○○ドルで売れ」などと指示していました。おそらく為替か株の取引だったのではないかと思います。
5分ほどで電話が終わると、何もなかったようにインタビューの続きを始めました。サミュエルソン教授もフリードマン教授もその後に、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカを代表する経済学者です。彼らの提唱する経済学を勉強していた私にとって、理論とは別に株式投資や為替、商品取引などに実際にお金を投資して、自分の経済理論を検証している姿を見て、なにかとても新鮮に見えました。
というのは、その頃の日本の経済学者、とりわけ理論経済学者の間では、「株でお金儲けするなんてもってのほか、学者にとって恥ずべき行為だ」とする見方が一般的だったからです。事実、私もその当時の著名な理論経済学者が「株をやっている」という噂など聞いたことはありませんでした。
なぜ、欧米の著名な経済学者の間で株式投資をする人が結構いるのに、日本ではいないのだろうか。それどころか、日本では、お金儲けのための株式投資は「学者の風上にも置けない行為」として軽蔑されてきました。この違いがどこからくるのか、長い間私には疑問でした。