コンテ首相が所信表明の演説をしていた時に、プーチン大統領はオーストリアを訪問していた。オーストリアのセバスチアン・クルツ首相と会談の為であった。
オーストリアの政権はクルツの右派国民党と極右派の自由党が連携しての政権である。プーチンがこの訪問の目的としたのは、旧ソ連からオーストリアに天然ガスを供給して50周年に当たるということを記念しての訪問であったという。しかし、プーチンの今回の訪問の真の狙いは別の所にあった。即ち、今年9月からEUの議長国がオーストリアになるということにプーチンは関心をもっているのである。
クルツ首相は、ウイーンは東と西を繋ぐ架け橋になりたいと望んでいるという。また、ロシアとは政治交流を深めたい意向も表明している。プーチンにとっても、オーストリアが親ロシア派として動いてくれることを望んでいるのである。
プーチンのロシアにとって、中央ヨーロッパのウイーンと地中海のローマとそれぞれ政権を持っている政党とのパイプが出来たというのは地政学的に重要なのである。
更に、プーチンの戦略に加担するかのように、東欧には
ヴィシェグラード・グループというのが存在している。このグループに加盟しているのはハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアの4か国で、どの国も嘗て旧ソ連の影響下にあった国で、今もロシアに親近感を持っている国々である。特に、ハンガリーとポーランドはEU委員会の政治方針に常に異論を唱えている2か国である。
イタリアのポピュリズム2政党の政権が親ロシア色を強めると西欧と東欧のEU加盟国の間で均衡が崩れる可能性は十分にある。
しかし、イタリアに関しては疑問もある。即ち、イタリアはコンテ首相が指摘しているように、イタリアはNATO加盟国の一員であると認めている。しかし、NATOは敵をロシアと設定している。イタリアにもNATOの基地がある。レトニアやエストニアにはロシアからの脅威の前にイタリア軍が派遣されている。ロシアを擁護しようとしているイタリアの新政権はNATOの加盟国として今後どのように振る舞って行くのか観察してゆく必要がある。
<文/白石和幸 photo by
Fabio Visconti via Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0) >
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。