大阪の熾烈な百貨店競争に「庶民派百貨店」はどう挑む?――全面リニューアルした「阪神梅田本店」を徹底解剖(2)

阪神は「日常に特化」で棲み分け

 さて、ここで気になるのは、グループ企業となった「阪急百貨店」との棲み分けだ。  阪神梅田本店の向かいにある阪急うめだ本店は、阪神に比べてOL世代の顧客が多いことが特徴であり、阪神が取り組む顧客拡大の対象層と一致する。

阪急うめだ本店

 そこで、阪神百貨店が棲み分けのために取り組んだのが「日常への特化」だ。

取材に応じる阪神販売促進部ゼネラルマネージャーの松下直昭さん。「日常への特化」に取り組んだという

 4階婦人服売場では、これまで百貨店に出店していなかった「コストパフォーマンスの高いテナント」(松下GM談)を新たに誘致。また、2階ではハンドメイドアクセサリーを取り扱うほか、まもなく梅雨の時季に入ることもあり個性豊かな「ビニール傘」200種類を展開するなど、各所で上質でありながら百貨店にしては手軽な「日常使いできる上等品」の品揃えを強化している。これらはOLをターゲットに据えつつも「庶民派」として親しまれた阪神だからこそできた売場とも言える。  松下GMによると、建て替え第1期棟のうち4分の1が2021年秋の全面開業に向けた「テストマーケティング」要素を持った売場であるといい、各フロアの窓際に設けられたテラススペースでは今回の「ビニール傘」のような「挑戦的な」期間限定商品や期間限定イベントの展開を数多く実施する計画だという。  「限定」という言葉を聞くと、売場を毎日チェックしたくなるOLも少なくないであろう。百貨店といえば、通常「たまにしか行かない」という人も多いと思われるが、このように、食品・ファッション・ライフスタイルなどあらゆる分野において「日常的に」「頻繁に」来店したくなる仕掛けが多く取り入れられているのが新・阪神梅田本店の一番の特徴であるといえる。

各階に設けられた「テラス」では個性的な期間限定売場も多く展開される

 また、阪神百貨店が従来から得意としてきた骨董品売場においても「こっとう女子」に向けて関西発のライフスタイル情報誌「SAVY」とコラボした商品提案を行うなど、若年層へ向けたアプローチが行われていることもおもしろい。

阪神が得意としてきた骨董品売場にも若者をターゲットとしたコーナーが

 なお、近年「顧客層の拡大」「若年層の取り込み」を掲げる多くの百貨店では、いわゆる「ファストファッション」などの大型専門店を導入する例も少なくないが、そうした店舗はJR大阪駅ビル「ルクア」など徒歩圏の大型商業施設に出店しているということもあり、阪神梅田本店では導入されていない。こうした面を見ても、同店がライバル店と対峙するような真っ向勝負を挑む訳ではなく、阪急百貨店のみならず地域における商業施設ごとの棲み分けに配慮された、梅田エリア全体の価値を高めるような売場構成となっていることが伺える。

OLにも人気の大阪駅ビル「ルクア」。写真の「ルクア1100」は旧「三越伊勢丹」部分にあたり、ファストファッション「フォーエバー21」や大型書店「蔦屋書店」などが出店する

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目指すは「梅田全体の価値向上」
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