RADWIMPS新曲に見る「無邪気な愛国ファンタジー」の果てにあるもの

浅く純朴な「愛国」の先にあるもの

 そもそも、なぜ「この国のことを歌いたい」と思うのだろう? なぜ自らを犠牲にしてまで国家に尽くしたいと言いたくなるのだろう? もちろん、そう思うこと自体は自由だ。しかし、思想的、理論的な根拠もないのに大声で宣言できるのが不思議でならない。なぜ、その種の“正しさ”が唐突にあらわれるのだろうか。  エッセイなどを通じて日本社会の問題を論じてきた詩人の金子光晴(1895-1975)は、こう分析している。 <正統を唱え、正統と称する人たちのうしろには、いつも大きな歴史的な根があってそれに頼ろうとする。ものごとに正面からぶつからない。安全性があり道も開かれている。(中略)正統には国家も法律も加担してくれるからね。だから正統は怖いですよ。> (『自由について』 中公文庫 p.134)  金子はオブラートに包んでいるが、「大きな歴史的な根」から発せられる「正統」の正体は、思考停止だと言っているのである。  そして思考停止のままつながりを失った個人が、最後に拠り所にするものは何なのだろうか? 金子の見立ては以下の通りだ。 <上海も、ロンドンも、ローマも、いまでは、おなじように箱を並べたような団地住宅が建って、おなじような設計の狭い部屋で、コカコーラと、スパゲッティと、サンドイッチで暮らすようになる。世界は、似てくる。これをデモクラシーというのであろうか。同時に、ばらばらになってゆく個人個人は、そのよそよそしさに耐えられなくなるだろう。そして、彼らは、何か信仰するもの、命令するものをさがすことによって、その孤立の苦しみから逃避しようとする。> (『絶望の精神史』 講談社文芸文庫 pp.186-187)  ここに、現実の生活とは縁もゆかりもない愛国心が生まれる。彼らは保守的思想を持った右翼だから危ういのではない。苦しみを紛らわせているという事実から目を背けたまま、“正しい”ことに突き進む。そのメカニズムに愛国心が組み込まれている状況こそが危機なのだ。  確かに、RADWIMPSや椎名林檎に社会を動かすだけの力はないだろう。だが、彼らの曲が浮き彫りにする闇は過小評価すべきではない。 <受け継がれし歴史を手に 恐れるものがあるだろうか>(「HINOMARU」)  このフレーズに疑いを持たない純朴さこそが、今日の恐怖なのである。 <文/石黒隆之>
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