一見、美しい海水浴場のように見えるが、実は汚染が深刻
その日の取材を終えて滞在中のホテルに戻ると、夕暮れに染まりつつある海辺に大勢の人々がくつろぎ、海水浴を楽しんでいた。ガザの人々にとって海辺は憩いの場。海を眺めながら家族や友人とお茶やシーシャ(水たばこ)を楽しむのが、休日の過ごし方のひとつ。
ただ残念ながら、正直言って海で泳ぐことはあまりお勧めできない。イスラエルの封鎖によって必要な資材がガザに入ってこないうえ、封鎖による燃料不足・電力不足により、稼働している下水処理施設がほとんどない状態。生活排水がそのまま海に流されているため汚染が深刻なのだ。それでも人々は海で泳いでいる。
海辺で遊ぶガザの少年。満面の笑みではあるが、後で病気になる恐れも
筆者が「健康上、問題あるのでは?」と聞くと、サミさんは「当然、体には良くはないよ」と言う。「泳いだあと皮膚が痒くなったり、感染症になったりすることもよくあるんだ」。実際、昨年7月にガザの海で泳いだ5歳の男の子が、赤痢菌に感染して死亡している。
「それでもガザの人々、特に貧しい人々にとっては、海辺で遊ぶことは数少ない楽しみなんだ」(サミさん)
ガザの海岸は美しく、まるでリゾート地のようだ。ここが紛争地であること、目の前の海の汚染が深刻であることを、しばし忘れさせる。しかしよく見ると、イスラエルの“封鎖”は地上だけでなく“海上”の封鎖もあり、それがガザの人々の日常生活にも大きな悪影響を与えているのだ。
<取材・文・撮影/志葉玲>
フリージャーナリスト。パレスチナやイラクなど紛争地での現地取材のほか、原発や自然エネルギー、米軍基地、貧困・格差など、幅広い分野を取材。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『
たたかう! ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『
原発依存国家』(扶桑社新書)、『
イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」事務局長