元磐田カレン・ロバート、ニセ代理人に3回も連続で騙されていた<2>

今度は「契約書をなくしてしまいました」

 そして約一週間後に、二人はインド大使館がある九段下で待ち合わせた。そのときに、元代理人から衝撃の一言が発せられる。 「ボビーさん、契約書をなくしてしまいました」  もはや代理人失格などというレベルではなく、人間失格である。お人よしのカレン・ロバートもさすがに目が覚めた。 「お前、それはないぞ。ありえないよ。今までの話、全部ウソでしょ。オレ、元々最後はイングランドに行ってやるのが夢だったと言ったよね。インドの話はもういいから、せめてあちらで冬のマーケットでトライアウトを受ける手配だけしてくれ」  この元代理人は「知人にスコットランドに強い人がいるので……」と言い繕ったという。カレンは12月後半にスコットランドへ行き、この“知人”代理人の伝手でいくつかのクラブのトライアウトを受けた。 「この代理人はしっかりした方で、色々なところで手配してくれました。二部で一つ受けてもし希望の選手が獲れなかったらほしい、という流れになっていたのですが、結局希望の選手が獲れたということで僕の話は流れました。その次にスコットランド三部のトライアウトになったのですが、そのとき彼から“イングランドのXXでトライアウトが来週あるので行ってください”と連絡があったのですが、当日になると“クラブと連絡がつきません”。あなた、またですか、と」  もし筆者がカレン・ロバートなら、九段下で元代理人が“契約書をなくした”時点で一発ぶん殴って関係は終わりである。もちろん携帯からも番号を消す。  スコットランドおよびイングランドにいっても、まだこの元代理人と連絡をとるところが、ある意味でカレン・ロバートのお人よしぶりを如実に浮き彫りにしている。その意味では本人の責任も大きい。 「そしたら、あいつがイングランドのクラブからのメールを転送してきて、そこに電話番号も書いているんですよ。それがイギリスの番号だったから本物なのかと思って電話したら、全然出ない。けど、ショートメールは一回返ってきたんですよ。これは結果いつもの偽装メールだったのでしょうね。二月に入って、正式に代理人替えました」  そんな時期に、カレンは衝撃の一報に触れる。「平山引退」だった。 「そのとき僕はイギリスにいて、ネットのニュースで見ました。あれだけケガが続いて、もう体が思うように動かなかったのでしょう。本当に寂しい気持ちになりました。日本サッカー界は平山を育てられなかったことをよく考えるべきだと思います」  間違いなく、彼にとって一つの時代の終わりを否応なく伝える一件だった。  カレン・ロバートは、この代理人についてほかの選手からも相談を受けていた。 「タイにいたある日本人選手ですが、とあるクラブから具体的な条件を本人に直接提示されたんですね。それでこの代理人に相談したら、“いま中東からいい話がきているからちょっと待ってくれ”と言われたらしいんです。例によって強化部長やらなんやらの名前がいろいろ出てくるのですが、彼が立派なのはウラをとってそういう人物は存在しないということを突き止めたことです。 しかも彼の場合はお金を払ったうえでこの元代理人に業務を依頼していたんですよ。せめておカネだけは返せ、と迫って決別したんですけどね。引退状態に追い込まれていましたが最後はなんとかラトビアでクラブを見つけてプレーしています。条件はかなり落ちたと思いますので本当に可哀想です」  カレンとは「こいつを実名で告発するか」論議を重ねたが、「とりあえず、彼がサッカー界からいなくなってこれ以上の被害者が出なければそれでいい」ということなので、その意思は尊重することにしたい。  次回は、皮肉な形で実現したカレン・ロバートの渡英後の日々について触れていきたい。 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。  雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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