「水戦争」はすでに始まっている。 南米巨大水源地帯に忍び寄るアメリカ

640px-Rio_Parana_Rio_Iguazu

アルゼンチン、ブラジル、パラグアイが国境を接する場所は巨大水源地だ photo by Abuelodelanada via WikimediaCommons(CC BY-SA 3.0)

 21世紀は水戦争が世界規模で起きる――。  これは陰謀論の話ではない。すでにある地域ではその兆候が出始めている。ある地域というのは、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイに跨る国境地帯とアルゼンチンとウルグアイの国境地帯である。  その地域の地下は、世界で屈指の淡水地帯となっている。スペイン・グラナダ大学の国際安全研究グループの分析レポートによると、地下に埋蔵されている淡水の面積は、その広さ120万平方kmで、年間で仮に40立方kmを採水するとして、一日に一人当たり300リットルを供給すると、同時に3億6000万人に同量の水を供給できるだけの埋蔵量だという。しかも、年間で160-250立方kmが加水されているというのだ。  その埋蔵量を国別に見ると、ブラジル(84万立方km)、アルゼンチン(22万5000立方km)、パラグアイ(7万立方km)、ウルグアイ(4万5000立方km)となっている。既に、ブラジルでは300の自治体にこの地下水が供給されているという。(参照:「GESI」)

ヒズボラ対策でアルゼンチンに米軍基地!?

 21世紀に入って、地政学的にこの存在をどの国よりもより重要視して支配下に置きたいと望んでいるのが米国である。しかし、埋蔵量の多いブラジルとアルゼンチンの政権は当初ロシアと中国との外交関係が根強く、米国の入れる余地はなかった。  ところが、2015年12月にアルゼンチンはマクリ大統領、その後2016年8月にはブラジルでテメル大統領と、それぞれ欧米に外交の軸を置こうとする大統領が誕生した。それは米国が新ためて影響力を振るうことのできる時期の到来であった。  その動きが具体的に表れたひとつが、2017年11月にテメル政権がブラジル、ペルー、コロンビアとのアマゾン地帯における軍事合同演習に米軍の参加を招待したことだ。ルセフ前大統領の政権時では考えられないことであった。(参照:「El Pais」)  アルゼンチンではマクリ大統領が就任早々に米国との関係修復を開始した。マクリ大統領が米国を訪問すると、その返礼にオバマ前大統領がアルゼンチンを訪問した。この関係が発展して、両国の間で2017年9月から2018年8月の期間に軍事協力として両国の軍事合同演習がアルゼンチンで実施され、アルゼンチンに米軍基地が3カ所設置されることが決まったのである。(参照:「Resumen LatinoAmericano」)  その一つが、正に上述の地下淡水地帯にあるミシオネス県への米軍基地の配備であった。その理由としては、この地域でイランの手足となって活動しているヒズボラを取り締まる為だということが掲げられた。前回記事(参照:ラテンアメリカに根を張る、イランと関係が深いテロ組織ヒズボラの活動)でも報じたように、ヒズボラが麻薬や武器の密売をもとに資金を稼ぎ、それがレバノンのヒズボラの活動資金になっていると米国では見ているからである。  同時に、アルゼンチンにとっても麻薬密売が次第に増えており、しかもヒズボラによるテロ活動を経験していることから米国と同じ必要性を感じている。  この3か国国境地域でヒズボラと関係を持っていると思われるレバノン人が年々増えているのは、特にパラグアイのこの国境に隣接した都市シウダ・デル・エステだという。この3か国の国境は橋で繋がっており、米国にとって1か国をコントロールすれば他の2か国にも自ずと影響力を発揮できることになるというものである。  アルゼンチンはこの3つの国境でのアルゼンチン領土内における軍事基地の設定の手始めとして、両国が合意した合同軍事演習を5月2日と3日に設定し、米軍がアルゼンチンに入国したのである。
次のページ
アメリカの真の狙いは巨大水源地か
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会