ダナンの空港で見かけた、ベトナムでもっとも安心して乗れるタクシー「マイリン」
島国である日本からすると、ほとんどの国への行き来は空路になる。そのイメージもあって、空港はその国の玄関であるという認識を持っている人は少なくないのではないだろうか。逆に言うと、空港でひどい目に遭うと、その国全体があまりいいものではないとも思えてしまう。
例えば東南アジアは多くの国が空港から市街地へアクセスするための交通機関がタクシーで、そのタクシーの質がよくない。特にベトナム社会主義共和国である。首都ハノイであればノイバイ空港から中心部まで道のりで約30km、タクシーは本来なら15米ドル前後(約1650円)程度になる。しかし、空港にいる多くのタクシーは数十ドルをふっかけてくるなど、ボッタクリが甚だしい。
仮に50ドル(約5500円)と言われても、日本なら30kmで1.2万円くらいかかることを考えればずっと安いのだが、タクシー運転手らはそのあたりを知った上で外国人から取れるものは取ってしまおうという魂胆が見え隠れする。南部の商業都市ホーチミンは特にひどく、現地在住のベトナム語が堪能な人であってもボッタクリでないタクシーに乗ることはほぼ不可能だという。
物価が安いとはいえ気分がよくないこともあって、ベトナムのタクシーは低評価である。その点を考慮したからか、2016年ごろからハノイとホーチミンの空港から市街地に向けたエアポートバスが登場している。一般の路線バスが1回35円程度の利用料の中、エアポートバスは100円から150円の乗車料金と高めではあるが、タクシーよりもずっと安全で安心である。
ノイバイ空港からハノイ市内を結ぶエアポートバスは乗車率も高い
そんなベトナムでは、観光客が多い空港ではなく、地元の人が多い市街地においても、最早タクシーは嫌われる存在なのか、都市部において手を挙げてタクシーを停める人はほとんどいなくなっている。スマートフォンが普及した現在、タクシーはアプリで呼ぶことが基本になってきたようだ。
日本語の観光ガイドブックにおいては、ベトナムで利用できるタクシーは「マイリン」など3社程度で、それ以外は改造メーターや料金のつり上げなどボッタクリであるために利用してはいけないとされる。現地在住の日本人に聞いてもそれは事実で、あと2、3社ほどは安心して利用できる会社があるにはあるそうだ。
仮に計6社が問題の少ないタクシー会社(あくまでも問題が少ないだけで、良質とされるタクシー会社でもボッタクリは起こっている)だとしても、ホーチミン市人民委員会的には登録するタクシー会社が全部で21社あるとしていることから、残り15社が悪質であるということになる。普通に考えて、これは異常な数である。
これでは、ベトナム人でさえもまともに利用できない、しかし、日常の足として使いたいということから、今はスマホ・アプリでタクシーを呼ぶことが常識となっている。もっとも強いのはシンガポールの企業がサービスを提供する「Grab(グラブ)」だ。アメリカ発の同業「Uber(ウーバー)」が東南アジアを撤退し、同事業をグラブが買収したことで今やひとり勝ちの状態だ。この4月にウーバーはベトナムから完全撤退し、ベトナム国内ではハノイ、ホーチミンの都市部ではグラブの緑色のユニフォームをまとったバイクタクシーなどが大量に走っている。
客を乗せて走るグラブのバイクタクシー
ベトナムの情報発信サイトの2017年10月の記事によれば、ホーチミンのタクシー台数は同市が制限する台数をはるかに上回る3.5万台になる。しかし、タクシー会社のタクシーは徐々に減っていて、1.1万台程度に留まり、残りの2.4万台がグラブなどの配車アプリの車になる(参照:「
Viet JO」)。
グラブの広告もホーチミン市内のあちこちで見かけた
グラブは料金などがあらかじめわかるので、消費者も安心して利用できる。だからこそ、従来のタクシーは見向きもされなくなっているのだ。そして、タクシー運転手を廃業して、新たにグラブ加盟運転手が増えるという結果になっている。