原発再稼働に慎重な県民の期待を受けて就任したはずが、女性問題で辞任することになった米山前知事
まさに安倍政権が期待する“二階シナリオ”通りの展開になった形だが、問題は「総理官邸のご意向に従う官僚なのか否か」「自民党や官邸の言いなりになるのか否か」ということだ。いくら選挙前に「安全性が確認できなければ原発再稼働すべきではない」と言っていても、原発の安全性確認について、知事に確固たる基準や認識がなければ「国が安全と言っているから再稼働容認」となってしまう可能性が高い。
しかし、花角氏の原発再稼働に関する認識はたいへん薄いと言わざるをえない。それは出馬前のコメントにも現れていた。5月9日の出馬要請を受けた後、地下鉄の改札口に向かう花角氏を記者団が追いかけるぶら下がり取材となり、記者が原発再稼動に対する考え方について質問したときのことだ。
――1年半前の県知事選で米山氏は「(原発事故時の住民避難用)バスの運転手が確保できないので避難計画は不十分。再稼動すべきではない」と訴えて当選していました。それと同じ考えでしょうか?
花角:(米山県政下の)検証委員会をしっかりやるべきだと思います。検証をやっていないのに、再稼動ができるわけがないじゃないですか。
記者の質問にストレートに答えず、検証委員会の継続しか口にしない花角氏。そこで「米山知事は『(原発事故時の住民)避難用バスの運転手が確保できないので再稼動反対だ』と選挙中に訴えていましたが」と再質問をすると、驚くべき回答が返ってきた。
「その事実関係を知りません。検証が終わらない限り、(再稼動は)認められないですよね」
これは「原発問題に対する基礎的知識の欠如」としか言いようがない。新潟県知事選候補と実名報道されてから2週間以上経っているというのに、花角氏は前回の県知事選での米山氏の主張すら把握していなかったのだ。
しかも「原発事故時の住民避難用バスの運転手確保が不足」「避難計画は不十分」との指摘は、米山前知事が「県政継承」を掲げた泉田裕彦・元県知事が訴えていたことでもあった。そして泉田氏が去年秋に総選挙に出馬表明した際にも、「原子力防災(原発事故時対応)の欠陥」が放置されていることを政界入りの理由に挙げていたにもかかわらず、泉田県政の副知事をつとめた花角氏は「その事実関係を知りません」という。
原発再稼動に邁進する安倍政権は原子力防災の欠陥を無視して、何とか再稼働にこぎつけようとしている。泉田元知事と米山前知事の二代にわたって問題提起してきた内容を知ることなく、花角氏は一つ覚えのように「検証委員会」と繰り返す程度の知識で新潟県知事選に出馬を決めたといえるのだ。
<取材・文・撮影/横田一>
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた
『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他
『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数