経済の目立った好転が見られない状況の中でも、これまでマクリ大統領への支持率は50%以上を常に維持していた。それは多くの市民を苦しませたフェルナンデス前政権から決別できることを期待していたからであった。
ところが、誰もが予期しなかったIMFへの支援を要請をすることをマクリ大統領がテレビを通して伝えてからは、多くの国民はマクリ大統領に裏切られたという気持ちでいるという。
マネージメント・アンド・フィットの世論調査によると、マクリ大統領への支持率は35%まで下がり、不支持率は55%という結果になっていることが報じられた。また調査に答えた人の3分の2は「経済状態は1年前と比較して非常に悪い」と回答したという。(参照:「
PabloRossi」)
政府がIMFへ支援要請をしたことは、中年以上の多くの国民の脳裏に、苦い体験をさせられた2001年のデフォルトの記憶を蘇らせた。その中でも鮮明に記憶しているのは預金封鎖であろう。銀行からの資金の流出を恐れて、当時のフェルナンド・デ・ラ・ルア大統領は1週間に250ペソ(1200円)しか引き出せないという決定を下したのであった。なお、当時はまだ1ペソ=1ドルという交換レートであった。これが動機となって、主要都市では市民が鍋を打ち鳴らす抗議デモ、店舗での強奪、銀行支店の破損などから警察と衝突して34人が亡くなっている。(参照:「
BBC」)
当時の政府の負債はGDP比で54%で、金融危機を起こすほどの負債規模ではなかった。しかし、預金を引き出してペソをドルに換えようとする動きや、外国へ資金を持ち出そうとして銀行から資金の流出が顕著になり銀行はそれに応じられなくなるということを懸念して預金封鎖に踏み切ったのであった。
また、あの当時はメキシコの金融危機、ブラジルの通貨レアルの切り下げでアルゼンチンからの輸出が大きく後退、強いドルで逆に実質ペソの負債の急増、アルゼンチンの一次産品の価格の下落といったことがすべて重なり、政府の財政収支は極度に悪化していたのであった。これらの要因からデフォルトを引き起こしてしまったのである。
IMFはアルゼンチンの国民にとってこれまで良い印象を与えていない。それはIMFが要請して来る財政緊縮策による弊害は常に一般市民が被ることになり、富裕者はその難から逃れることを知っているからである。そして、IMFが介入することは国家を売り渡すことになると考えている国民もいる。(参照:「
BBC」)
当面、政治家になる前はサッカーの名門ボカ・ジュニアーズの会長だったマクリ大統領の采配振りを観察して行く必要がある。
<文/白石和幸 photo/
Senado Federal via flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。