なぜ栗山英樹監督の「殺し文句」は、大谷選手を口説き落とせたのか?

山口博

 大谷選手は入団するメジャーリーグ球団を選ぶ際に、最初にふるい落とした球団の中にニューヨークヤンキースが含まれていました。ニューヨークヤンキースの「大谷選手がヤンキースを選ばなかったのはおじけづいたからだ」という意味のコメントが報道されていましたが、大谷選手は地位権限のモチベーションファクターは持ち合わせていなかったために、ヤンキースといういわば権威も通用しなかったわけです。

 メジャーリーグに行くことで年俸は日本ハム時代の数分の1になりますし、あと2年待ってからメジャーリーグに行けば破格の待遇になることが明白だったにもかかわらず、それらに頓着しなかったのも、経済的利益がモチベーションファクターではなかったことを示しています。

 冒頭の栗山監督の殺し文句「誰も歩いたことのない道を歩いてほしい」は、まさに大谷選手の目標達成型、自律裁量型のモチベーションファクターの琴線に触れたのです。

組み合わせ質問、繰り返し質問でモチベーションファクターを見極める

 このように、その人のモチベーションファクターの琴線に触れるフレーズは、その人を動かし、翻意させ、行動させるとても大きなパワーを発揮します。このフレーズを生み出すためには、まずは、その人のモチベーションファクターを見極めることが第一歩です。

 日常会話の中で、相手のモチベーションファクターを見極めることは難しいことではありません。相手のモチベーションファクターを見極める演習を行っていますが、見極めのために最も効果のある方法は、組み合わせ質問と繰り返し質問を繰り出すことです。

 組み合わせ質問とは、仕事でも休み中の出来ごとでもよいのですが、「うまくいったことは何ですか」「うまくいかなかったことは何ですか」というように、逆の意味になる質問を組み合わせる方法です。繰り返し質問とは、「楽しかったことは何ですか」「他にもありますか」というように、同じ意味になる質問を繰り返していく方法です。

 これらの質問を繰り返していくと、6つのモチベーションファクターのうち「だいたい目標達成型か自律裁量型だな、少なくとも地位権限型ではないな」、「安定保障型か、公私調和型のいずれかだな。少なくとも牽引志向ではないな」…というように相手のモチベーションファクターの見当をつけることができます。

モチベーションファクターを見極めて人を動かせ

 相手のモチベーションファクターを見極めることができたら、モチベーションファクターのキーワードを参考にして、その人の琴線に触れるフレーズを繰り出していきます。私は、自分の頭の中でこのフレーズがよいかあのフレーズがよいかとあれこれ悩まず、さまざまなフレーズを繰り出してみて、相手の反応をふまえてフレーズを研ぎ澄ましていくことをお勧めします。

 公私調和型の人に「昇給・昇格が期待できるから徹夜してがんばろう」と地位権限型のフレーズを繰り出しても、殺し文句になるどころか、ハラスメントにしかなりません。

 自律裁量型の人に、「あれは気をつけろ、それは失敗するな」と安定保障型のマイクロマネジメントのフレーズを繰り出しても逆効果にしかなりません。人を動かすパワーを持っている人は、大なり小なり相手のモチベーションファクターを見極めて、その琴線にふれる殺し文句を繰り出すことに長けた人なのです。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第82回】

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある

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