業界には上から目線で怒り出す、謎のおじさん、おばさんが一杯だ
想像をめぐらせてみると、彼は私が「テレビ局の偉い人に会わせてほしい」とか「食事でもどうですか」と言ってこないことにキレているのかもしれないと思った。
「初対面のときは『また今度お願いします』とか言って盛り上がったのに、その後ぐいぐい来ないからお前はダメなんだよ」と言われているような気がしたのである。
とりあえず、「分かりました。恐れ入ります。テレビの仕事に怖さがあるのは事実ですが、できることをしながら前に進みたいと思います」と返信。すると、
「あるテレビ局の30年近く付き合っている人間に紹介しようと思っていたのに・・・まあ~これからだね(原文ママ)」。
やはり、Mは私が「偉い人」に会わせてくれと懇願しないことに怒っていたのだ。怒られてもどうしようもできないので、「すみません……」とだけ返した。
それからも何度か「レポーター兼女優の仕事はできる?」等の連絡は来たものの、私の方で返信していない。ギャラの件でも、レポーターの女性を明らかに下に見ているような、おかしなメールが来たからだ。これは深入りしない方が良いと、さすがに分かった。
もしあの後食事へ行って、彼と親しくなっていたらと思うと怖い。メールだけでこの雰囲気なので、実際に会って仕事をしたらもっと嫌な思いをしたかもしれない。うしじまさんのツイートで、「有限会社M」と少しでも関わった件を今更ながら反省している。
私はいつも、なんとなく性善説で相手を信用してしまう。今までもノーギャラで依頼を受けてしまったり、安い原稿料に対して不満を抱えながら「今後一切、原稿料の上昇交渉には応じない」とのメールにOKしてしまったりというのはよくあった。
押しに弱く、自分の身を守るという発想があまりない。そういう性格だから、仕事をくれると言って近づいてくる人の中には、「悪いヤツ」とか「変なおじさん、おばさん」もいるという前提で動かなければならないと思っている(今思い出したが、ギャラの未払いを認めないおばさんもいた。波風立てたくないと思って、催促を諦めたのだ)。
自分より年下の女性に企画を持ちかけ、断られると怒り出す。そういうおかしなおじさんやおばさんはけっこういるし、自分の場合は元夫とも似たような感じで出会って企画を持ちかけられ、お金を振り込んでしまった黒歴史があるので、今さら告発しても「騙されやすいライター」と言われるだけで何の得もないかもしれない。が、うしじまさんのツイートには勇気づけられた。怒る権利くらい、私にもあるだろう。
というわけで自戒を込めて、またフリーで活動している人たちに「こういう人もいるから気をつけて」と伝えたいとの気持ちが湧いてきたので、筆を執った次第である。そろそろ性善説はやめた方がいいのかもしれない。フリーランスは、基本的に1人で生きていかなければならないのだから。
<文・北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」