あれは昨年秋のこと、仕事依頼のメールフォームに、Mから次のような内容が送られてきた。
ところどころに差し込まれる疑問符、依頼相手の著書を読んでないと言い放つなど、不審さに満ちた文面だ
Mは『キャバ嬢の社会学』を書いた私に、裏社会を取材するレポーターをやらないかという。しかし、私は2016年に炎上してからテレビ番組のオファーには及び腰で、またギャラの提示もなかったため、若干不安であった。とりあえず一度会って話を聞いてみようと日程を合わせたものの、私の都合でリスケに。
その後、原稿の仕事でバタバタして連絡が遅れると、「千葉テレビの件はどうなりましたでしょうか? ダメですか? もしダメでも連絡はしましょうね(笑)」との催促があった。この時点で少し距離感がおかしな人だと思ったので、とりあえず具体的な企画内容とギャラだけでもメールで聞いてみると、このような返信だった。
「企画? そんなもの決まってません。北条さんがレポーター及びアシスタントとしてキャバクラ業界や風俗業界を含め、色んな業界の女性などの取材をする取材があり何が出来るか? どういうものが番組で出来るか? も分からないのにそんな事決まるはずないのです」
との返信。今思えば上から目線で怖いし、怪しさ満点だが、当時の私は「連絡を返さなかったのでこれくらい言われても仕方ない」と思った。また、会わないとさらにしつこそうなので、話だけ聞くことにした。
そして10月某日、都内の喫茶店に現れたMは50代の男性だった。若い頃はテレビ制作会社で馬車馬のように働いていたが、不摂生がたたって脳梗塞か何かで倒れ、半身不随になってからは第一線を退いたそうだ。今はリハビリを繰り返して少し歩けるようになり、またテレビ業界を盛り上げたいと会社を作って、頑張っている。
私は、事前のやり取りから不安だったものの「一生懸命な人だな」と思い、彼の話を熱心に聞いた。メモも取った。彼も「北条さん、炎上でテレビの出演は減ったかもしれないが、これからどんどん巻き返して頑張っていきましょう」と言ってくれたので嬉しく、割と和やかな雰囲気だったと思う。
私は「もうテレビに沢山出たいとは思っていませんし、自信もありません」と言ったが、Mは上機嫌で、「キー局の偉い人を紹介しますよ」と言った。私はなんとなく気が進まなかったので、とりあえず礼を言ったものの、「これから食事でもどうですか」という誘いは断った。
色々ありがたい話ではあるが、仕事の話はもう終わったし、Mと2人きりで食事をすることで関係が深くなりすぎるのも嫌だったからだ。「また今度お願いします」と返事をして別れた。彼は良い人かもしれないが、出演の可否は具体的な仕事内容をもらってから考えようと思っていた。
それ以来、唐突に取材内容の依頼メールがあり、その都度「ぜひお願いします」と返信していたのだが、ある日突然、怒りのメールが来た。
「まず、あなたは連絡をよこさない。それがあだとなったのです。そんな事じゃ仕事は前に進めないのです(原文ママ)」
なぜかキレ気味だが、怒られる理由がまったく理解できない。ただ、嫌な気持ちだけが残った。