Q5・微表情からウソを見抜ける?
微表情という情報のみからは見抜けません。微表情はウソの証拠ではなく深堀質問ポイント(=専門的には、ホットスポットと言います)だからです。
確かにウソつきと正直者の表情とを比べると、ウソつきの表情には幸福・恐怖・嫌悪・軽蔑・罪悪感の微表情が漏洩する傾向にあることがわかっています。
しかしこの傾向はあくまで統計・確率上の話であり、絶対的なゴールデンルールではありません。したがって、目の前の相手の顔に微表情が漏洩するのを認めたら、「なぜ、今、この人は感情を抑制したのだろう?」と考え、その適切な理由を質問法などを駆使して探るのが実用的かつ効率的なウソ検知法です。
Q6・表情・微表情から人の心を見通すことが出来る?
出来ません。出来ることは推定することのみです。表情・微表情それ自体は心ではないからです。
心をここでは感情の源、感情の理由と仮定しましょう。表情・微表情を正確に読み取ることが出来れば、相手の感情はわかります。しかし、その感情がどこに、あるいは誰に向けられているのかは、表情という情報のみからはわかりません。
企画会議中にあなたがプレゼンをしているとします。ふと同僚の顔を見ると、軽蔑(軽蔑と優越感は同じカテゴリーにある感情と考えられています)の微表情が生じるのに気づきました。
①あなたのアイディアにわきの甘さを感じているのかも知れません(=あなたより自分は凄いと優越)。
②あなたのアイディアが凄すぎて自分の能力を卑下してしまっているのかも知れません(=自分に対して軽蔑、自己卑下)。
③はたまたこのアイディアがあればライバル企業を出し抜けると感じているのかも知れません(=ライバル企業に優越感)。
Q7・それでは相手の心を知るにはどうしたらよいでしょうか?
感情の機能を活かして質問しましょう。軽蔑を抱いている人は優越感を満たすという行動に向かいます。軽蔑の微表情ということは、優越感を満たす行動をしたくても出来ない、そんな状態です。感情が抑制された状態を私たちは好みません。
「私のアイディアに欠けている点があると感じているのですが、どうもわかりません。もしお気づきならば教えて下さい。」
こんなふうに相手に問いかけます。①ならば、抑制された感情を解放しようと同僚は自分のアイディアを表明してくれるでしょう。
それが素晴らしければラッキーです。くだらなければスルーすればよいでしょう。②ならば、あなたを褒めてくれるでしょう。あるいは「自分なんて」といじけるかも知れません。③ならば、ライバル企業を出し抜く戦略を語ってくれるでしょう。このように感情の機能を活かした問いを行うことで心の推定が可能になるのです。
いかがでしょうか?これまで本連載を読んで下さっている方には知識の整理となったことと思います。初めて本連載を見て下さった方にとっては表情・微表情の世界に興味を抱くきっかけとなれば幸いです。
第51回目以降も、清水建二の微表情学をよろしくお願いいたします。
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。