配置基準を超えた人数を見ることも 現役保育士の悲痛な叫び
また、印象的だったのは、「そもそも福祉と教育を一緒に考えてる人が多すぎる」というコメントだ。保育園は厚労省の管理下にある福祉施設。教育を行うのは文科省下にある幼稚園だ。その両方の特徴を兼ね備えた認定こども園で働くAさんは、「この線引きが曖昧だから、余計な作業が増えて、子どもをしっかりケアできない」と指摘する。
「保育士はあくまで“保育”が仕事。幼稚園には教員免許が必要ですし、本来性質が違うんです。保育と幼児教育、それぞれが専門性を高めあってきたので、現場でプライドがぶつかることもあります。また、どちらが子どもにいいとも簡単には言えません。その2つを合体させることで誰が得をするのか? いったい誰のためのこども園かと思いますよ。親からの要求が高くなるのは仕方ないですが、基本的に保育と教育は違うものだということは理解してほしいです」
ちなみに両方の特徴を備えたこども園では、基本的に幼稚園教諭・保育士、両方の資格が必要となるが、施設のタイプや扱う子どもの年齢によっては、どちらかだけでも働くことができる。
厚生労働省の「保育資格プラン」によれば、平成29年度末までに国全体で6.9万人の保育士の確保が必要とされていた。それだけの保育士が不足する一方で、業務は増え続ける……。肉体的にも苦しい仕事だが、精神的なストレスも並みではない。子どもたちの安全を維持するため、神経を張り続けなければいけない保育士は、鬱状態になってしまう人も少なくないという。
「保育士の人数が足りていないとき、子どもを全員同時に見るのは物理的にムリ。何か大怪我をしてしまったり、事故が起きたらどうしようと常に周りを見回し続けなきゃいけないので、頭が痛いです」
できる限りの力を尽くし、子どもたちの環境を憂える保育士だが、何か起きれば責任を負うのは自分たち。それでも身を粉にして働き続けるモチベーションとは……。
「言いたいことはたくさんありますが、この仕事を続けているのは子どもが好きだから。しかし、子ども第一であるべき仕事が、最近は親へのサービスに重きが置かれているように感じます。そのしわ寄せがいくのは子どもたちです。保育士だけの問題だと思わずに、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいですね」
「働き方改革」が叫ばれる昨今。未来を担う子どもたちを育む保育士の仕事を「ブラック」のひと言で片付けるわけにはいかない。
<取材・文/林泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン