公安が目を光らせる封鎖された大連の幹線路(2010年5月3日午後7時撮影)
北朝鮮の金正恩委員長が3月25日に「非公式」に中国を電撃訪問した。訪中情報は完全に封殺され中国在住の中国人へ聞いてもまったく知らない人がほとんどで、金委員長らが3月28日朝6時(中国時間)すぎに丹東から出国した後に中朝官製メディアが大々的に報じた。中国国営の『新華社』には冒頭で強調するように非公式と繰り返している。
これまで金正日総書記の訪中時などでは韓国発で伝えられてきたが、今回は韓国発ではない。ただ、北朝鮮は韓国へ事前に金委員長の訪中を伝えており、韓国政府が報道規制をした可能性が高い。
共産党政府に関するセンシティブな情報以外は比較的に自由に報じる中国のネットメディアも今回は完全圧殺、現時点でも「WeChat」などチャットアプリでのキーワード規制がされているようで官製メディア以外の記事はヒットしない。
つい先日の全人代(全国人民代表大会=国会に相当)では、法治国家や世界の責任ある大国になったことを強調していたが、舌の根も乾かぬうちに独裁国家ばりの強権発動させてまで徹底規制したのはなぜだろうか。
今回の訪中は2泊3日だったが、鉄道での移動時間が長く実質1泊3日。どう考えても非効率だ。しかし、金正恩委員長はあえて先代である金正日総書記と同じ手段で訪中することで後継者であることをアピールし、それに対して中国は、先代と同じように情報の完全封殺と徹底警備などまったく同じ対応で応えることで、事実上、金正恩委員長を金正日総書記の正式な後継者と認めたことになる。北朝鮮にとってこのお墨付きは喉から手が出るほど欲しかった後ろ盾なのだろう。
元々世襲について批判的だった中国が今回、世襲を容認してまでトップ会談したのは、北朝鮮を巡る情勢の劇的な変化にある。4月に南北会談、5月には史上初の米朝会談と平昌冬季オリンピックのときにはまったく想像もできなかった急展開ぶりである。さらには、中朝関係の悪化の中で北朝鮮とロシアの急接近もあり、中国としては、握っていたはずの北朝鮮のキャスティングボートを再び取り戻す必要性と急速に薄まった朝鮮半島における影響力を復活させる必要があった。
しかし、中国にとって一番の課題は対米戦略である。アメリカとの貿易問題で関係が悪化する中で、アメリカに対して中国の立場を強化するために北朝鮮が再び利用できるとの判断が働いたと考えられる。そのために中国は譲歩してでも北朝鮮とアライアンスを組む必要があったのであろう。