先述した各メディアの発信元を見ると、ほとんどがスペインの「EFE通信社」東京事務所からのものなのだ。EFE通信から受けた情報のどの部分を取り上げて記事にするかということで各紙の内容に差異が生じるが、発信元がひとつであるということから、その骨の部分は各紙で共通したものになってくる。
いま現在、日本にブランチを置いているスペイン系メディアはEFEだけなのだ。スペインで一番の代表紙『El País』は東京に構えていた事務所をすでに北京に移している。報道分野においてもアジアの中心は日本ではなく中国に移っているのである。
スペイン語圏のメディアでは、中国に関係した報道は頻繁にある。また、例えば、ラテンアメリカでは15年の間に中国のラテンアメリカとの取引量は22倍に増えている。しかも、この3年間に習主席はラテンアメリカを3度訪問している。これだけでもラテンアメリカでは報道メディアも関心は自ずと中国の方に赴く。
また、ドイツのメルケル首相は殆ど毎年北京を訪問しているのもその証左だ。
幾分か余談になるが、スペインのイベリア航空がマドリードから東京へのフライトを廃止したのは1998年であった。当時、在東京スペイン大使は東京に行くのに今後は他国の飛行機に乗らねばならないということに残念がったという。廃止した理由は採算ベースに乗らないからであった。廃止になる少し以前には、マドリードと東京をノンストップで飛行するために燃料タンクを大きくしたものを設置したことも無駄に終わった。地球儀で見ると分かるが、東京からマドリードまで飛行するには、パリからまだ先にマドリードが位置していることから燃料が余分に必要なのである。
この東京へのフライトの廃止はスペインの報道メディアの拠点が東京から北京に移されたことと何か関係しているような気が筆者にはする。即ち、日本のアジアにおける存在感が中国の前に後退しているというのを意味しているように感じられるのだ。
もちろん、日本サイドにとっても、ラテンアメリカやスペインが外交上の優先順位が低いように思われる。安倍首相は2012年に首相になってからラテンアメリカへの訪問は2度だけである。スペインは1度だけで、しかも、その訪問も駆け足でヨーロッパ歴訪の中での「ついでの訪問」で、ラホイ首相と会談したのはマドリードではなく、サンティアゴ・デ・コンポステラであった。
豊富な資源量を持つラテンアメリカや、英国が抜けた後のEUではGDP4位の国になるスペインは、すでに中国が影響力を増しており、地盤を固めつつある。日本ももう少し関係を強化していく必要があるように思われる。
ちなみに、東日本大震災以降のスペイン語圏の大半のメディアが報道した日本の出来事は、何の事件かご存知だろうか? それはなんと、兵庫県議会の野々村竜太郎議員が大号泣した出来事であった。彼が泣いている写真入りで、スペイン語圏の紙面を賑わせたのであった……。
スペイン2位の新聞「EL MUNDO」で報じられる野々村議員の号泣シーン
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。