もう一つ例を出します。
あなたは36歳のサラリーマン。結婚10年目の同い年の奥さんがいます。結婚当時はスレンダーな26歳だった彼女も、2人の子どもを出産し、家事が多忙を極めています。
日曜日の夜。子どもが寝たあと、夫婦2人で缶ビールで晩酌をしています。
「今週末、運動会だから、パパ早起きして席取りよろしくね」
「おう」
「あー、お弁当もちゃんと作らないとな。何にしようかしら」
「なんでもいいよ」
「幼稚園に入るとほんとに大変ね。最近、1ヶ月で3キロも太っちゃったの」
「そうなんだ。別にジムに行くならお金は出すよ」
「ジムって自分から通わないとダメでしょ? 続かないわよ。忙しいし。朝はお弁当だし、昼は掃除と洗濯があるし、夜はもう子どもを迎えにいって夕飯でしょ?」
「じゃあ、少し高いけどライザップみたいなパーソナルトレーニングは? それなら食事も管理してもらえるし。ちょうど臨時ボーナスが入ったからそれはプレゼントってことで!」
「う~ん…」
「いいの? ジムいかないの?」
「あのさ、私のこと全然わかってないわよね?」
「え?」
「もういい。私も寝る」
そう言って、奥さんは飲みかけのビールを流しに捨て、ベッドに向かってしまったのです。
これ、みなさんも同じ状況ならば似た行動を取ってしまうのではないでしょうか。
この場合も、ひたすら「奥さんの話を聞く」が正解だったのです。
「最近太った」と奥さんに言われたときは「そんなことないよ。キレイだよ」と答えるべきでもなく、また奥さんは「痩せるためにはどうしたらよいのか知りたい」と思っているわけでもない。
相手の意図は「私の話を聞いて」。
ただ、これだけです。
つまり、悩み相談のほとんどの状況では、相手はそもそもポジティブシンキングを求めていないのです。
かつて、私の同僚が、友人からリストラされたことを相談されて「むしろいいチャンスだと思いなよ! 独立するきっかけだと思えば?」とポジティブ思考でアドバイスしてしまい、相手に逆ギレされて絶交されたことがあります。
とにかく、人との会話においてポジティブ思考はとても危険なのです。
というわけで、相手の話を聞くときは私の経験則的に最低20分、できれば30分は聞く側に徹することをおすすめします。その結果、単に聞いてほしいだけなのか、解決策を求めているのかを判断してください。
相手から「話がある」と相談されたら、このどちらかを言えばOKです。
1「何があったの?」
2「何か、辛いことがあったの?」
あとはひたすら「それで?」「うんうん」とうなずくだけです。
20分ほど経ったところで、相手の話が一通り終わったとします。そのタイミングでこちらが口にすべきなのは「どうしたいの?」ではなく、「どうだった?」です。
すると、高い確率で「スッキリした」と言ってくれます。
これで相手はあなたに親近感を持ってくれますし、相手の悩みも解消されます。
ある知り合いの医師の方から話を聞いたのですが、簡単な風邪の場合、ほとんどの患者さんのケースは薬を出すのが結論だそうです。でもひたすら患者の話を聞く。これが何より大事だそうです。
「むしろ、医師は病気を治すんじゃなくて、話を聞くのがメインの仕事だよ」と彼は言っていました。
アドバイスは「俺ならこうする」になりがちなので、押し付けになりがち。ポジティブ思考も相手の状況を考慮しない「押し付け」という意味では同様です。
「相手の立場になって考えろ」とよく言われますが、これって実はかなり難しいことなんです。相手が置かれている状況や心情が詳しくわからないからこそ、ひたすら聞き役になることしかできないのです。
そして、これこそが悩み相談されたときの唯一の正解の行動なのです。
もちろん、私は「リフレーミング」を使ったポジティブ思考のすべてを否定しているわけではありません。
ただし、これは自分に向けてだけ行ってください。常に自分がポジティブ思考でいることは自分の話なので大丈夫。しかしこれを他人に押し付けた瞬間に地獄が待っています。
ポジティブ思考が陥る罠、おわかりいただけたでしょうか。
<文/tatsu>
心理カウンセラー、人間関係コンサルタント。1982年栃木県生まれ。大学時代まで柔道部に所属し、男だらけの青春時代を過ごす。大学卒業後、大手企業の営業部に配属。仕事のやる気はなく、成績も上がらず叱られる毎日だったが、一念発起し独学で催眠術、心理学を学ぶ。3年で営業成績全国トップに。仕事で学んだコミュニケーション術を活かし、常に10人以上の女性からアプローチを受けている状態に。タレント、女子大生、ナース、大手企業社長秘書など、そのバリエーションもさまざま。現在は、芸能人や起業家主催のシークレットパーティでマジックショーや催眠ショー、YouTube番組出演のほか、自身の営業術・恋愛術を教える講演会や企業へのコンサルティングを行っている。