大量の観光客を連れて来る客船は、サン・マルコスの広場のところまで入船しているのだが、客船は公害をもたらす要因にもなると、住民からの執拗な抗議デモがあって大型客船は入港しなくなることが決定した。しかし、9万6000トン以下の客船についてはこの先も2~3年入港を続けることが議会で決定されたそうだ。(参照:「
El Confidencial」)
ただ、反対する住民側も、この入港を全面的に禁止することもできない事情がある。なにしろ、この客船の入港はラグーナの4300人の雇用と200社との取引に結びついているからである。
ベネチアにはさらなる苦悩もある。すでに80%ほど完成しているベネチアの水面沈下を防ぐ為の携帯水門MOSEシステムもとんだ金食い虫になっているのだ。当初の総工費は50億ユーロ(6750億円)であったが、既に60億~80億ユーロ(8100億円―1兆800億円)が費やされた上に、建設途中に汚職が露見したことで工事は遅れ、2022年の完成だと言われている。完成しても、年間の携帯水門の維持費として80億ユーロが必要であるとされている。8億ユーロ(1080億円)の財政赤字を抱える自治体にとってこの負担は安くない。(参照:「
El Mundo」)
世界有数の観光都市、ベネチアだが住民の暮らしは決して楽になってなどいないのである。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。