インバウンドも逆効果? 世界有数の観光都市ベネチアの住民が抱える苦悩

photo by kirkandmimi via pixabay(CC0 PublicDomain)

 観光で潤っている水の都イタリアのベネチア。10世紀には海洋国家として発展。そして今、ベネチアと118の小さな島を囲んでいる潟(ラグーン)は世界遺産となっている。  年間1000万人の観光客がラグーンで宿泊し、宿泊はしないが観光で訪問する客は1500万人だという。即ち、2500万人がベネチアを訪問している。まさに、観光で生計が成り立っている都市である。(参照:「El Mundo」)  1960年代から観光都市となったベネチア。その伸展が余りにも大き過ぎて、その犠牲になっている地元住民について取り上げた報道はあまり聞かない。

地元住民が「住めない」街になっている!

 1951年の統計によると、ラグーンに点在する島には17万4808人の住民が住んでいたという。それが2016年には5万4926人まで、およそ3分の1に減少しているというのである。この減少は今も続いており、毎年およそ1500人がベネチア本土やその近郊に移住しているというのだ。  理由は、余りにも観光重視の発展をしたために、地元の住民には住み難くなったからだというのである。(参照:「El Mundo」、「El Confidencial」)  先ず挙げられるのは、住宅問題だ。不動産業者にとって地元の住民と住居の契約をするのは年間で15件くらいだが、その一方で観光者を相手にした短期間の住居契約は日毎に15件あるという。例えば、50平米のマンションを住民が借りようとすればひと月2400ユーロ(31万3000円)から3400ユーロ(44万3000円)もするのだから仕方がない話だ。100平米の広さでサン・トマー広場の近くでさえ購入するのに54万5000ユーロ(7100万円)、リド島に至っては130平米で75万ユーロ(9700万円)もするというもので、一般の住民ではとてもじゃないが購入できない価格なのである。(参照:「El Confidencial」)  これが、観光客だと2~3日の宿泊だったり、最高でも2週間の滞在とかいった契約なので、上記に提示したレンタル相場を宿泊日数で割った料金を適用するということで、割高ではあるが、短期滞在の出費として納得するわけである。そのため、不動産業者にとっては住民と契約するよりも3倍以上の儲けになるのだ。(参照:「El Mundo」)  また、自分のマンションを持っていても、それを観光客を対象にレンタルして、持ち主はベネチア本土とか別の場所で生活する場合も往々にしてあるという。収入率の良い個人ビジネスになるからである。例えば、不動産業者AirBnBは、2016年10月に観光客を対象にレンタルで4076軒を手配したというのだ。(参照:「El Mundo」)

観光事業以外の商売が成立しない!

 更に、住民にとって不都合なのは働く場がなくなっていることである。ラグーンの島には、かつてパスタやビスケットなどを生産していたモリノ・スタッキーの工場、時計ユンハンスの古い工場、ビールの工場など住民が働ける場所が存在していた。が、今はそれもなくなっている。(参照:「El Confidencial」)  例えば、ある店舗が廃業すると、その後にそこに開店するのはカーニバルの面を観光客を対象に販売する店という具合で、街にはお面の店がたくさん出来る一方で、パンを買うにも近くにパン屋がなくなり、かなりの距離を歩かねばパンが手に入らないようになっているという地元住民には不都合な現象が起きている。(参照:「El Mundo」)  そのカーニバルも、以前は子供を対象にした祭りであった。ところが、観光業が盛んになってしまったことで、1980年代からは国際フェスティバルに変身>して子供の存在は影が薄くなってしまったそうだ。(参照:「El Confidencial」)  サンマルコスの広場の近くで1901年から帽子を販売している店の4代目ジュリアナ・ロンゴ氏は「店舗の賃貸契約を更新する度に100%値上げをして来てる。次の契約更新で同じように値上げされたら商いは続けられなくなる」と言って『El Mundo』紙の取材に答えている。  また、生活のために水路を利用して移動するために自家用の手漕ぎボートを手に入れようとしても、観光客を相手にするゴンドラに停泊する場所を取られ、住民がそれを持つことも出来なくなっている。車も駐車場に毎月200-250ユーロ(2万7000-3万4000円)を用意しないと車も運転できないのだ。  観光客が余りに多く、全てがバブル景気のようになって、そのしわ寄せがすべて地元住民に向けられているということなのである。
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板挟みに陥るベネチアの地元市民
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