元町工場勤務の記者が見る”下町ボブスレー”。プロジェクト最大の失策とは?
2018.03.13
橋本愛喜
総メダル数過去最多の13個に日本中が沸いた、平昌冬季オリンピック。その一方、下町ボブスレーにおける一連の騒動によって、日本の技術力をある意味で強く印象付けてしまった大会にもなった。
今回の「下町ボブスレー騒動」でよく耳にしたのが、「日本の技術力の衰退」なる言葉だ。
日本のモノづくりの危機に関しては、筆者も今まで何度となく言及してきたが、この件においては、ただの「技術力の衰退」とは、少しワケが違う気がする。
今回は、元町工場経営者の視点から、日本の下町工場の性質を紹介しつつ、一連の騒動の問題点や、日本の中小零細工場に残った課題を綴ってみたい。
下町ボブスレープロジェクト推進委員会(以下、「下町BP」)は2011年、大田区の町工場がもつ技術力を集結させ、日本初の国産ボブスレー用そりを開発するべく立ち上がった組織だ。
協力企業の多くは、金属の切削や研磨、形成、メッキ加工を生業とする中小零細工場。各々の技術は、世界的に見ても確かに高く、日本の新幹線やアメリカNASAのロケットなどに使用される部品を加工する工場も少なくない。
筆者がかつて勤めていた工場も一時期、蒲田の某工場から仕事を受けていたことがあるが、彼らの注文の細かさには、当時最も腕の良かった熟練職人をもってしても一発でOKが出ず、毎度泣かされていたのを覚えている。
そのため、ソチオリンピックに続く今回の下町製ソリ不採用のニュースを聞いた時は、筆者も正直驚いた。
しかし、オリンピック直前になってもレギュレーション違反を指摘されたり、ジャマイカチームのコーチ辞任問題で、下町製から鞍替えしたソリが使用できなくなった際、下町製のソリが現地で準備万端の状態で待機していたにも関わらず、使用されなかったりしたことからも、同製のソリが乗り手にとって大会直前までパーフェクトな状態になかったことは間違いない。
下町製のソリ製造には、合計150以上もの企業や団体が参加。各企業、日本のモノづくりを下支えする高度な技術に加え、有能な職人をも抱えている。今回の件に携わった職人の数は、少なく見積もっても300~400人規模になるだろう。
しかし、ボブスレーのソリ製造においては、彼らも経験10年に満たない、いわば“見習いプロジェクトチーム”。各々本業だってある。そのひとつひとつの工程に、既存の海外ボブスレー開発チームよりも試行錯誤する時間や労力がいるのは想像に難くない。ここまで協力団体が増えたのも、こうした浅い経験やノウハウをカバーする必要があったためだと考えられる。
そんな下町BPに対し、今回の件で広く世間に知れ渡ることになったBTC社は、ラトビアという小さな国にある若干6名の極小工場だ。
「たった6人」と思われがちだが、ボブスレー元日本代表選手の話によると、同社は世界で活躍した元ボブスレー選手によって立ち上げられた工房で、第一線で活動する選手も開発段階から係わっており、製造機の評価は大変高い。
実際、今大会の韓国ボブスレーチームも、BTC製のソリを使用するか、自国の最大手自動車メーカー「現代自動車」製のソリにするかギリギリまで迷った挙句、前者を選んでいる。
BTC社の正式名称が「Bobsleja Tehniskais Centrs(ボブスレー・テクニカル・センター)」であるところでも、この会社が“ただの工場”でないことは容易に想像できるだろう。
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