こうした、国主導のグダグダな宇宙開発を尻目に、米国を中心に「民間だけで月や火星探査をやってしまおう」という動きが起こり始めている。
たとえばイーロン・マスク氏率いるスペースXは、早ければ2024年にも有人火星飛行を行い、いずれは火星に都市を築く、あるいは月都市も造るといった構想を打ち出し、そのためのロケットや宇宙船の開発を進めている。Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジンも、月に都市を造る構想を明らかにしている。
また月や小惑星への観測機器の打ち上げや、資源探査を商業化しようという企業もいくつか出てきている。
もちろん、こうした民間の取り組みが成功し、実現するとは限らない。だが、スペースXはすでにロケットや宇宙船を何機も打ち上げることに成功しており、ブルー・オリジンも宇宙旅行のビジネス化を実現しようとしているなど、実現の見込みは徐々に高まっている。そして民間には切磋琢磨できる競争相手しかなく、誰かの顔色を伺う必要も、どこの国がなにを担当するか割り振る必要もない。
世界は確実に、民間主導の宇宙開発へと流れが変わろうとしている。もちろん、民間が宇宙開発をやるには国の後押しは必要であり、実際にNASAから民間に契約を与えたり、補助金を出したりしている。そして、(NASAにとっては幸か不幸か)それが功を奏し、民間がいよいよ独り立ちし、NASAの存在意義を失わせようとしている。
こうした中でいま、今後日本が国として、国際宇宙探査や有人宇宙開発とどうかかわっていくのかは大きな課題となっている。
行き先もやり方も定まらぬ、グダグダな米国の宇宙政策にこのまま乗っかっていくのか。それとも民間にできることは民間に任せ、リスクの大きなことは国が尻を持つようにして、民間の力を積極的に活用して宇宙開発を進める方針に転換するのか――と書くといじわるかもしれないが、いずれにせよ今後について、改めて、そして早急に考える時期に来ている。
スペースXが考える月面基地の想像図。NASAの月探査計画よりも早く実現する可能性もある Image Credit: SpaceX
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行っている。著書に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・The Trump administration wants to turn the International Space Station into a commercially run venture, NASA document shows – The Washington Post(
https://www.washingtonpost.com/news/the-switch/wp/2018/02/11/the-trump-administration-wants-to-turn-the-international-space-station-into-a-commercially-run-venture/?utm_term=.f35edf65e079)
・NASA Acting Administrator Statement on FY 2019 Budget Proposal | NASA(
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-acting-administrator-statement-on-fiscal-year-2019-budget-proposal)
・Deep Space Gateway to Open Opportunities for Distant Destinations | NASA(
https://www.nasa.gov/feature/deep-space-gateway-to-open-opportunities-for-distant-destinations)
・第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)(
http://www.isef2.jp/jp/about/)
・JAXA | 欧州宇宙機関(ESA)との機関間会合と共同声明について(
http://www.jaxa.jp/press/2018/03/20180303_esa_j.html)