トランプ大統領の“グダグダ”な有人月探査と、それを尻目に突き進む民間企業――2020年代、人類はどこへ行く?

まとまらない米国内と各国の足並み

 そんな折、3月3日に東京で「第2回国際宇宙探査フォーラム」が開催された。世界中から宇宙機関の閣僚が集まり、今後の国際宇宙探査をどう進めていくかを話し合う機会だったが、結局のところどう進めるのか、たとえばLOP-Gはいつ造るのか、いっぽうでISSの今後はどうするのかといったことについて、具体的な方向性は示されないまま終わった。  まだその詳しい内容は発表されていないものの、それに先立って行われた、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)との機関間会合で出された共同声明では、「月探査の意義を認識する」や「LOP-Gを含む国際宇宙探査ロードマップを支持」といった、曖昧な発表をするにとどまっている。  その背景にはいくつもの要因がある。まず主役的な立ち位置である米国は、たしかにトランプ大統領は「ふたたび月へ」という方針を示してはいるものの、そこにはなんら予算的な裏付けはない。最近では、ISSの運用を2025年から民間に移管し、浮いた予算や人員を有人月探査に充てるという構想もあるが、これまたまだ実現するかは不透明である。  つまりNASAも、鳴り物入りで復活した国家宇宙会議も、その将来について、まだ具体的な計画を描けていないのである。  もし米国内で「いつまでにLOP-Gを造る、予算もつけた」ということがまとまっていれば話は別だっただろうが、現状はこの有様で、日本や欧州などにとっても、まだ海の物とも山の物ともつかない計画に、おいそれと乗るわけにはいかないというのが本音なのだろう。  また、ISSは2011年にようやく完成し、日本や欧州が運用する実験室が定常的に稼働するようになり、いまも、そしてこれからも数々の実験が予定されているなど、「成果の収穫期に入った」(関係者談)段階にある。そのため、7年後の2025年で民営化、つまり国としてISSを手放し、また新たに宇宙ステーションを造るという米国の考えを、素直に受けられられないところもあろう。  かといって、米国がいなければもLOP-Gも造れず、ISSも運用できない。結局は米国の方針に従うしかなく、かといって代わって主導的な役割を果たすこともできないのが実情となっている。

現在、米国やロシア、欧州、そして日本などが共同で運用している国際宇宙ステーションの将来もまだ不透明である Image Credit: NASA

あの誰もが知ってるNASAが、どうして“グダグダ”なのか

 かつて月に人を送り、誰もが名前は知っているあのNASAが、どうしてこんな体たらくなのだろうか。  50年前にアポロ計画が成功したのは、ソ連との代理戦争という大きな目標があり、米国が単独で、さらに豊富な資金をもとに実施したからこそだった。ISSも、もともとは西側諸国が力を合わせ、ソ連の宇宙開発に対抗しようという目標があって始まったものだった。  しかし現在では、米国にとって対抗すべき“敵”はいない。中国という存在はあるが、かつてのソ連ほどの競争はなく、むしろ欧州は、宇宙分野で中国と積極的に協力しつつある。そのため、大掛かりな宇宙探査を進める動機は薄れ、またそれ故に使える予算も限られている。  したがって国際共同で進めるしかないが、やはり動機も予算もないことから、お互いの顔色を伺いながら進めざるを得ない。また国際共同では、言語や文化、使用する単位系の違いに始まり、どこの国がなにを担当するのか、その見返りになにをするのかなど、複雑な調整やすり合わせ、政治的な駆け引きも必要になる。  明確な競争相手も、そして目標もなく、守るべきスケジュールもなく、それ故になんら危機感もない以上、米国の宇宙開発や、その米国が中心となって進める国際協力での宇宙探査が“グダグダ”になるのは、ある意味では必然なのかもしれない。

アポロ計画が成功したのは、ソ連との代理戦争という大きな目標があり、米国が単独で、さらに豊富な資金をもとに実施したからこそだった Image Credit: NASA

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