美人になったハンさんは幸せそうな笑みをたたえていた
これを見て、まだ「整形は反対だ」という人はいないであろう。それくらい、美人になったハンさんは幸せそうな笑みをたたえていた。整形後の彼女は、まさに「THE・コリアンビューティー」といった顔立ち。ゲストの鈴木奈々さんは、「なりたい顔!」と絶賛していた。
そんなハンさんによると、韓国では「大学入試が終わると、親からお金をもらって目や鼻を整形する学生が多い」という。なぜなら、「韓国では就職する時に顔が悪いと不利」だから。彼女も整形する前は、面接官に「顔を見るなり追い出された」と告白した。
お隣の国に、こうした厳しい事情があることは事実であろう。
そして、この番組を見て「やっぱり韓国人は外見だけしか見ないのだ、差別的な国だ」と腹を立てる視聴者もいただろう。が、外見差別はどの国でもあるし、美人をやたらと持ち上げる風潮は万国共通ではないか。
欧米諸国(といっても国によって違いはあるが)では人種差別も加わり、白人至上主義の美が支配している。それに苦しむ男女は多く、コンプレックスを解消しようと整形して、悪徳業者に騙され、失敗した患者を治す専門のクリニックもあるほどだ。白人のように美しくないと、社会で尊重されない。そんな不安につけこむビジネスが跋扈している。
日本人だって、よその国を笑えない。外見をまったく重視せずに、新入社員の採用を決める会社があるだろうか。私はこれまで、「能力が多少劣っても、ブスより美人を採用するのは当然だよな」と笑い合う男性社員を何度も見た。
また、ネットでは多くの日本人女性が、整形を理由にバッシングされているが、その内容で多いのは「整形してもブス」というものだ。美人を重宝して、それを目指す営み(美容整形)自体をさげすむ風潮は日本にもある。
問題なのは特定の国ではない。美の基準をナイフにして、他人を傷つけるのが快感になるという、私たちに巣食うどうしようもない醜さなのである。
韓国だけを、「どうやら外見差別がひどいらしい」という中途半端な情報だけで非難する人が多いのを見るにつけ、これは誰もが内面化している外見差別を「見て見ぬふりするためのネタ」なのではないかとすら思うのだ。
人の振り見て我が振り直せである。無邪気に韓国を嗤っているうちは、まだ、あなたの意識の量は多くない。
<文・北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」