フィリピン・マニラの治安改善の影で広がる貧富の格差

 その後も、数年に1回のペースでマニラがあるルソン島を訪れていたが、今回、3年ぶりに訪れたマニラは安全になったと実感できたのだ。  まず街の雰囲気が大きく変わった。24時間営業のコンビニやファストフード店が増え、夜間はガードマンがいない店、いても手にしているのはライフル銃ではなく小型拳銃に変わっていた。  もちろん、そうは言っても2016年の数字を日本と比べても殺人件数13倍、強盗件数9倍という状況だし、南部のミンダナオ島中西部などは、「外務省の海外安全ホームページ」で渡航中止勧告のレベル3。さらに治安のよさをウリに英語留学が盛んになったセブ島も在住者によると治安が悪化傾向にあるのだというので、改善の余地はある。  しかしそれでも、安全な場所が増えてきたことは渡航する日本人旅行者の人数にも反映されており、フィリピン観光省によると2016年初めて日本人渡航者が50万人を超え、2017年は60万人を超える見通しを示している。

治安改善の反面、生じ始めた「歪み」

 しかし、治安改善の反面、生まれた歪みも感じる。まず増えたのが子どもの物乞いだ。子ども5、6人の集団で店を出た外国人などに小銭をよこせと要求してくる。体をぶつけてきたり非常にアクティブだ。子どもの物乞いは過去にも見たことはあるが、こんなに見かけたことはない。夜間になるとコンビニ店内にも入ってきて金銭をたかってくる有様だ。ガードマンが減った影響もあるだろうし、面倒なのか店員も注意することもない。  子どもの物乞いが増えたというのはこの子らの親が経済的に苦しいのか両親がいないなどの状況が考えられる。ドゥテルテ大統領によって掃討されたマフィアの末端で職を失ったのかもしれない。  ドゥテルテの強権で一掃された麻薬の売人だが、この先にはまだ課題がある。次はこの子どもたちが、再びマフィアや麻薬の売人などへ走らなくてもいいように安定した職を生み出さねばならないのだ。  数々の暴言や人権無視の姿勢、あるいは国連脱退をほのめかすなどお騒がせ的な存在だったドゥテルテだが、今のところフィリピン国内での支持率は維持している。今後、貧富の格差を是正し、不幸な子どもを減らせるような社会を作れるか? その結果、治安改善がさらに進めば海外投資も増え、いい経済成長のサイクルを描けるようになるか? ここからが正念場になってくるだろう。

厳しい状況でもフィリピン人は常に笑顔を絶やさず陽気だ

<取材・文/我妻伊都 Twitter ID:@ito_wagatsuma
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