今回の打ち上げはあくまで実証実験であることから、SS-520がそのまま、今後も小型・超小型衛星を打ち上げるロケットとして使われ続けるわけではない。また、前述の開発経緯もあり、SS-520は衛星を打ち上げられるロケットとしてはギリギリの性能しかないため、実用に向かないという理由もある。
ただ、使われた技術や装置などを、他のロケットに応用する形で活かすことは考えられている。
たとえば、民生品を活用した電子機器を提供したキヤノン電子は、昨年8月にIHIエアロスペースや清水建設、日本政策投資銀行と共に、超小型ロケットの開発、運用を手がける「新世代小型ロケット開発企画」という会社を立ち上げている。公式な発表はないが、今回のSS-520の衛星打ち上げ実験を通じて、同社で開発するロケットのための実証を行ったものと考えられる。
いっぽうの「たすき」は、そのまま実用衛星としても使うことができる。とくにストア&フォワードについては、日本ほど通信網が発達していない国で、海上や山の中にある観測装置からの情報を集める際に役立つことから海外でのニーズが高く、すでに引き合いもきているという。
SS-520 4号機、5号機という世界最小のロケットによって培われた技術やノウハウは、いまだ拡大を続ける宇宙ビジネスという、いわば無限大の可能性に結びつこうとしている。
たとえば超小型ロケットに関しては、すでに日本では、インターステラテクノロジズや前述した新世代小型ロケット開発企画など、いくつかの会社が設立されている。しかし、他国では同じくらい、あるいはそれ以上のスピードで開発が進んでおり、すでに衛星の打ち上げに成功した企業もある。日本の置かれている環境、状況は十分ではない。
今後、さらなる発展のためには、国がこれからも積極的に、資金提供や、今回のような実証実験の機会の提供などの支援を行っていく必要があろう。もちろん、民間と適切に住み分けし、なおかつ民間のもつ低コストな技術とスピード感という長所をいかした上で、である。
道のりは険しいが、日本の超小型ロケットと衛星がビジネスとして定着し、世界的にも成功できる可能性は、まだ十分にある。
超小型ロケットを開発しているインターステラテクノロジズ Image Credit: インターステラテクノロジズ
<取材・文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・JAXA | SS-520 5号機による超小型衛星打上げの実証実験の結果について(
http://www.jaxa.jp/press/2018/02/20180203_ss-520-5_j.html)
・JAXA | SS-520 5号機による超小型衛星打上げ実証実験について(
http://www.jaxa.jp/press/2017/11/20171113_ss-520-5_j.html)
・参考4 SS-520 5号機のミッション概要(
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/060/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2017/10/12/1396928_13.pdf)
・平成27年度宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(民生品を活用した宇宙機器の軌道上実証)に係る委託先の公募について(METI/経済産業省)(
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9204476/www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/k150217004.html)
・『新世代小型ロケット開発企画株式会社』の設立について(
https://www.canon-elec.co.jp/news-backnmbr/detail/20170809_pressrelease.pdf)