さて、この「300年クローゼット」プロジェクトにおいて最も気になることは、地球自体の滅亡よりも「百貨店の滅亡」――つまり、小売業の変化が激しいこの時代において「大丸が300年後も存続できるか?」ということだ。
バブル経済崩壊後「ヤオハン」、「マイカル」、「ダイエー」、「寿屋」など、流通大手の経営破綻が相次いだことは記憶に新しい。
現在、創業200年を超える百貨店は大丸、松坂屋、三越、そして東北のうすい、名古屋の丸栄、九州の岩田屋、山形屋などが挙げられるが、意外にも当時から存在しており大手百貨店となった企業で屋号が完全に消滅したものは東京・日本橋に本店があった「白木屋」(東急百貨店に合併、存続会社は白木屋)1社のみ。その消滅も1967年のことで、さらに白木屋はハワイの店舗が別企業の運営で存続しており、近年完全に消滅したものは存在しない。
江戸時代から続いた「日本橋白木屋」跡地はコレド日本橋となっている。創業200年を超える老舗から大手百貨店となった企業で屋号が消滅したのはこの「白木屋」のみだが、法人格は東急百貨店として存続している
とくに、大丸松坂屋百貨店は、百貨店業界で国内最古の松坂屋(1611年創業)と大丸(1717年創業)が合併した企業であり、松坂屋の創業からは実に407年と、世界的にみても老舗中の老舗だ。
しかし、流通業の移り変わりが激しい昨今、これから先はどうなるか分からない。1615年創業の名古屋市の百貨店「丸栄」は2018年中に廃業する見込みであるほか、1700年創業で山形市と米沢市に展開する百貨店「大沼」も2018年中に東京の企業再生ファンドに経営権を譲渡して経営の立て直しを図る方針を固めている。
創業から403年の名古屋の老舗百貨店「丸栄」は2018年6月に閉店する予定。跡地はキューピーコーワで知られる「興和」が再開発する
大丸は、300年クローゼット特設サイトのQ&Aのなかで「300年後もお客様のそばにいつづけるための取り組みをつづけている」としたうえで、デジタル化が進んで実店舗がなくなっても何らかのかたちで品物の保管と展示は続けると明記しているほか、「万が一倒産してしまった場合は、お客様や引き継いでくださった方と対応を決める」とも述べている。
果たして、300年後の西暦2317年には日本の百貨店はどういったかたちになっているのか、そして私たちの生活はどう変わっているのか…それは到底知り得ることはできないが、品物はしっかりと受け継がれ、そして大丸が創業600周年を迎えて持ち主の子孫へと返却される際には大きなニュースになることであろう。
300年クローゼットの応募期限は2018年1月31日まで。「大丸にゆかりのある品物が家にある」という方は、300年後の世界を思い描きつつ応募してみてはいかがだろうか。
「300年クローゼット」のロゴ(ニュースリリースより)
<文/若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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