とはいえ、他国のロケットではすでに以前から実用化されている技術であり、そこにようやく追いついたというだけであって、今回の改良をもって世界のトップに立てたというわけではない。
また、衛星コンステレーションを計画している企業も、すでに他のロケット会社と契約しているか、そもそも自社でロケットも造るなどしており、日本のロケットを積極的に使おうという動きはない。
ただ、いままでH-IIAでできなかったことができるようになった意義は大きく、他国がすでに実用化しているからといって、決して無意味なものではない。
たとえば、他のロケットが失敗したり、あるいは他のロケットの打ち上げ予定がいっぱいで、打ち上げたい時期に打ち上げられないといった事態が発生したりした際に、“代打”として、日本のロケットにお鉢が回ってくる可能性はある。
とくにH-IIAは信頼性が比較的高く、また決められた日時に正確に打ち上げる「オンタイム打ち上げ」率も高い。衛星をビジネスに使おうとしている企業は、ユーザーとの契約でサービス開始時期などが決まっていることが多く、衛星の打ち上げが失敗したり遅れたりすれば、違約金の支払いや契約解除といったリスクもある。その点で、高い信頼性とオンタイム打ち上げ率をもつ日本のロケットが好まれる、頼られるチャンスはあるだろう。
また、H-IIAは他のロケットに比べてコストや価格が高いという欠点があるが、現在開発が進んでいる「H3」では、その価格差もいくらか改善できると見込まれている。
まずは今回のH-IIAで、この複数の衛星を異なる軌道に入れるという技術を実証し、そしてH-IIAから次世代のH3にうまくバトンをつなぎ、高い信頼性とオンタイム打ち上げ率を維持しつつ、打ち上げ能力やコストも改善する――。
こうして一歩一歩、着実に成功を重ね、実績と信頼をアピールすることができれば、いつか日本のロケット・ビジネスが大きく花咲く可能性もあろう。
製造中のH-IIAロケット37号機(筆者撮影)
<取材・文・写真/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・H-IIAロケットの継続的な改良への取組み状況について(
http://www.jaxa.jp/press/2012/01/20120125_sac_h2a_j.pdf)
・平成29年度 ロケット打上げ計画書気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)/超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)/H-IIAロケット37号機(H-IIA・F37)(
http://www.jaxa.jp/press/2017/10/files/20171027_h2af37_j.pdf)
・H-IIAロケット高度化プロジェクト 終了審査の結果について(
http://www.jaxa.jp/press/2016/07/files/20160714_h2aupg_01_j.pdf)
・基幹ロケット高度化 プレスキット 基幹ロケット高度化 H-IIAロケットのステップアップ(
http://fanfun.jaxa.jp/countdown/f29/files/f29_presskit.pdf)
・三菱重工技報 Vol.51 No.4 (2014) 航空宇宙特集 技術論文 H-IIAロケットの高度化開発 -2段ステージ改良による衛星長寿命化への対応- (
http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/514/514053.pdf)