レファレンスサービスを活用してビジネス成功に結びつけた例も
冒頭の破棄問題が、年々厳しくなる図書館運営の一端を表していることはわかったが、利用者側のニーズはどうなっているのか?
実際の図書館にはネット検索にない事柄や、裏付けとなる資料を求めてくる人が後を絶たないが、彼らが活用しているのがレファレンスサービスだ。
リファレンス協同データーベースでは、全国の利用者の質問が共有される
「レファレンスは、単に本の所在や情報提供だけでなく、利用者がニーズどおりの資料にたどり着く手伝いをします。司書が利用者の意図を汲み取りながら、質問に近いものを探し、知りたい答えに導きます」
とはいえ、どう活用するのかピンと来ない人も多いだろう。そこで、中沢氏はビジネスに特化した例としてこう話す。
「ある県立図書館の取り組みの一例ですが、たとえば『台風は増えているか』という質問をしにきた男性がいました。彼は次に、『台風が来るとシャッターが壊れるか?』ということへの回答となる資料を求めました。なぜなら彼は、暴風雨に耐えられるシャッターの開発にあたり、市場規模の程度を確かめに来ていたのです。男性はその資料をもとに一念発起して起業し、大成功を収めたという例があります」
こうした事例は国立国会図書館が開設しているレファレンス協同データベースに載り、その図書館で未解決だった場合、他の図書館が引き継いで解答まで導いてくれることもある。
メール対応してくれる図書館もあるので、足を運ばずとも調べ物ができる。
また前出の事例のように、全国の図書館で創業支援や経営者向けに特化した「ビジネス支援」が展開されている。
商用データベースやビジネス書のコーナー、専門家への相談窓口を通常の図書館内に別途設置する形だ。本だけでなく人物もマッチングする箇所もある。アメリカではすでに100年以上前から導入され、多くの世界的企業が生み出されてきた。
そのほか、「うつ病の方が外出時のリハビリとして来たり、親子連れの休息場所になる事例も増えた」ともいう。このように利用目的も多様化するなか、人員数を含めた運営問題は急務といえよう。
【中沢孝之氏】
図書館問題研究会委員長。学習権と知る自由を保障する図書館の発展のため、町村での図書館作り、司書職制度の実現、図書館組織網の確立などに取り組む
<取材・文/カシハラ@姉御>