もうひとつ、ZARAが販売促進で大事にしているのは納期の早さである。デザインを起こして、それが店舗に並べられるまでに3週間以内という早さである。しかも、300人のデザイナーが毎年1万8000着のモデルを生んでいる。しかも、各アイテムの生産量も供給過剰にならない生産量にする。即ち、消費者にとって、今日ZARAの店を訪問して気にいったら買っておかないと、ひと月後に訪問した時には既にそのモデルは店で完売してなくなっているという場合も生じるようにした戦略で生産しているのである。
もちろん、その一方で、ファストファッションは模写のファッションであるということも知っておく必要がある。ZARAにデザインを盗作された例はたくさんある。
ファストファッションの特徴は最新の流行を素早く取り入れて、それを大量に生産し、安価な価格で即納して行く体制にするのが基本だからである。このファストファッションの基本を完璧なまでに実行しているのがインディテックスなのである。これと同じことはユニクロでもできない。ZARAの牙城を崩すべく、一点集中主義で唯一対抗できているのが激安を柱にして販売しているPRIMARKである。
インディテックスがアパレル業界で世界のトップに成長した陰には2005年からインディテックスのCEOに就任しているパブロ・イスラ(53歳)の貢献が大きい。彼は国家弁護士の資格を首席で取り、銀行勤務が彼の最初の仕事であった。インディテックスと最初から繋がりのあった人物ではない。しかし、オルテガは彼に全幅の信頼を寄せて、年俸1000万ユーロ(13億円)の報酬を与えて、これまでインディテックスの経営を任せて来た。
その彼がアマンシオ・オルテガのことを次のように語っている。
「彼の学歴は物足りないかもしれないが、企業家としての経歴は誰よりも勝っている。彼は常に物事を注視しており、直感と常識を遥かに超越した先を読むことが出来る能力を持っている。それは彼の持っている探求心が手伝って体験から学んだものである。そして二つの秀でた長所を持っている。謙虚さと聞く能力である」と。
オルテガは今後は彼の不動産事業と財団の経営に専念するとしている。
<文/白石和幸 photo by
Gpccurro via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0) >
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。